せんさいせん

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「おい」 「はい、お父さん」 「出掛ける。髪をおろせ」 「分かりました」  父に命じられ、私は自分の長い長い髪を崖下におろす。真上にある太陽の光を受けて漆黒の髪の毛が煌めいた。 「用意が整いました」 「おい。儂が帰ってくるまでに仕上げておけよ」 「はい」  私が返事をすると父は佩刀し、私の長い髪を伝って器用に崖下へおりて行く。  崖の高さは父が20人ほど並ぶくらいになるだろうか。私も一度でいいから崖下へ行ってみたいと思うのだが、この高さを見ると足が竦んでしまう。それに崖下にはたくさんの魔物がいるそうで、私などがおりればあっという間に餌食になると、父には口辛く言い聞かされてきた。  髪に負荷がなくなる。父がおりたのだ。  私は長い髪を手繰り寄せると、そのまま崖上に建つ小屋に入る。  掃除は終わったばかり。  父が帰ってくるまでにを仕上げておかなければならない。そのため私は液体の入った瓶と筆を持って奥の部屋に入る。  部屋の中には長い反物。長いと言っても私の髪より長いことはない。  部屋の端から端まで広げた反物には途中まで花が描いてある。私は瓶の蓋を開けて筆を液体に浸す。  液体は透明。しかし液体が揺れるたびにキラキラと輝いてみえる。  筆を反物の上に静かに落とす。ゆっくり引けば白い反物の上に鮮やかな花が咲く。    実際に花畑なるものは見たことがないのだが、父がまれにたくさんの花を摘んで帰ってくる。色とりどりの鮮やかな花。大きな花、小さな花。それが反物に咲く。線を引くたびに反物は花畑になる。  父はこの反物を売りに行き、得た金で食糧を調達してくる。  私はその間に、反物に花を咲かせ、そして瓶の中身を絶やさぬよう必要な材料を崖上に群生する草の中から探してくるのだ。  作業に没頭し、気付けば外は暗くなり始めていた。瓶に蓋をし、筆を洗い、反物を干す。
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