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――2016年春 「高校生活あっという間だったね」 「絶対泣かないと思ったのに、答辞で泣かされたし」 「大学行っても遊ぼうね」 3月なのに、雪が降った日。 私たちは、高校を卒業した。 「PTA会長、アドリブ下手だったよね」 「それね。雪降ってんのにさ、“日ごとに暖かくなり、すっかり春らしく”…とか言い出すんだもん」 「笑い堪えるのに必死だった」 卒業が名残惜しく、皆教室の中で語り合っている。 この教室を出て、正門をくぐってしまったら、もう戻ってこられないから。 「佐々木」 廊下から、大好きな声が聞こえる。 私は、パッと教室の外を見た。 「旦那がお迎えに来てるよ」 「ほら、来週には遠距離なんでしょ。今の内にベタベタしときなって」 友達に後押しされ、私はカバンを持った。 「ホントに、大学行っても遊ぼうね!約束だよ」 「また後で連絡するよ」 私は友達に手を振り、教室を出た。 廊下には、付き合って2年になる彼氏の池戸聖(いけどこうき)が立っていた。 「聖!」 野球部だった聖は、引退してから髪を伸ばしている。 夏は地肌が見える坊主頭だったけど、今じゃ髪が伸びてきて、まだ短髪ではあるけど地肌はもう見えない。 「一緒に帰ろ」 「うん」 聖と並んで昇降口へ歩き、それぞれの下駄箱で靴を履き替えた。 正門まで並んで歩いたところで、 「もう一緒に登下校すること、ないんだよな」 ポツリと呟いた。 野球部のマネージャーだった私は、朝練の日も夜遅くまで部活だった日も、2年間ずっと聖と登下校していた。 もう、その日々が来ない。 私は校舎の方を振り返った。 「何だか、寂しいね」 来週になったら、聖は大学に通うために、東京へ行く。 今までずっと一緒だったから、顔すら簡単に見られない距離に離れてしまうのが悲しい。 「俺たちなら大丈夫だよ。顔見れなくても、心で繋がってるだろ」
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