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Ⅺ 襲撃からの脱走
「そっか。もうすぐ、試験も終わりですね」
主君の手にあるのは、これから行われる最終試験に残った、五十名の書類。ガゼルは陣頭指揮を執っているクレイセスに替わり、今日一日、サクラの護衛を担当する。クロシェとサンドラを始め、主な従騎士たちもまた、指揮を執るために出てしまうためだ。
最後の試験は、捕り物となった。
ここ一年ほど、王都周辺を荒らし回っていた盗賊集団がいるのだが、それが今夜、王都を襲撃するとの情報が入ったのだ。サクラが王都に常駐している今、四の倍数で午後に二時間のみ行われるセルシアとの接見を求め、多くの民が王都に流入してきていた。急激に増加した人の流れに、それに伴って増える小さな事件。城下の治安維持隊はなんとか回していたものの、大きな捕り物をするための各隊との連携が困難となり、近衛に助けが求められた。クレイセスはそれを「ちょうどいい」と、受験者たちが実際に自分の指揮の下、どれほど動けるかを以て、最終試験とする、と決断した。
「せっかくシェダルが強硬に図った若返りも、これでまた元に戻ることにはならないか」
サクラが署名するだけの書類を持ってきたエラルが、彼女の目の前にドサリとそれを置きながら言うのに、サクラは笑って言った。
「そうでもないかも。二十代から三十代の騎士、半数以上残ってます。これって最初の想定より多いんじゃないでしょうか」
見ていた最終受験者の書類をエラルに渡すと、ざっと目を通した彼は「ほう?」と首を傾げた。
「今日の捕り物で、若手が残るといいな。あんまりじじいが揃うと、伝統だのしきたりだのにうるさくなる」
「エラルさんはそれ、辟易してたんですね」
サクラがふふっと笑ったのに、「慣れてたのかと思ってた」とガゼルが言えば、「面倒には思っていた」と今更な本音が伝えられる。
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