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 一年後。真はその都立S高校にいた。銀髪を黒く染めたところ、おもしろがった雅に伊達眼鏡をむりやり装着させられた。おかげで、彼は見た目に限っていえば、真面目な好青年そのものであった。少なくとも、職員からは好感を持たれたが、生徒たちからは汚名をきせられていることも知っていた。彼からしてみると、それでよかった。下手に、ちやほやされると疲れるし、人間観察もやりずらくなってしまう。     真は、二週間でこの高校の生徒達の裏側を聞睹(ぶんと)するとはなはだ嫌気がした。すぐにかつてハンバーガー店でたむろしていた学生たちを目撃した。その際、彼らは相変わらず下劣な会話を交わしたり、賭け事をしていたのだった。    ・・・      実習最後の日。それは金曜日の放課後のことだった。  雑誌やバインダーを腕にかかえて渡り廊下を歩いていた真の目に飛びこんできたのは、当時とりわけ厭悪感を誘発した音也とかいう学生だった。  男子生徒は、うしろに女子生徒を連れて早歩きしている。真の目には、もたもたする彼女の腕をがっちり握りしめて引っ張っているように見えた。  真はいぶかしむような顔でその男女を見つめた。もしや、あの子は例のカノジョの……。    ——『直ちゃんって奥手らしいじゃん?』——。 「あぁ。さいごのさいごで。やっと見つけたよ……」   はぁ、と息をつくと真は行くべき方向とは反対の通路を進んでいった。曲がり角を曲がった先で、すべて真の予測は的中していたのである。  ところがひとつだけ、想像していなかった光景がそこにはあった。     真は、その女子生徒をじっと見て眉間に深いしわをきざんだ。  彼女は、『助けて』といっている。このままでは死んでしまうと叫んでいた。   真は、少し前の自分を彼女の姿に重ねていた。そのとき、真の体は彼の意志と無関係に動いた——。
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