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木琴の音のあとに、放送のアナウンス。
「文化祭にご来場のみなさま、本日はまことにありがとうございます。生徒たちが学びながら楽しんだいくつもの成果をご覧ください。まずは、生徒会長からのご挨拶です…」
ここで委員長の声と、ホンを手で叩く効果音。
「だめだ。つまらないな、この流れは。ありふれたものになってる」
二年の先輩(女子)の声。
「委員長は弾けたいの?」
委員長。
「ああ、真の放送とは、万人受けするもんじゃない。それはニュースがやってるからな。俺が目指すのは、分かる人にこそガッと掴むようなもんだ」
私が聞く。
「身内受けするのを目指してるんですか?」
二年先輩(男子)の声。
「身内受けはつまらないだろ」
委員長。
「ああ、それはだめだ。そうゆうんじゃなくて、たとえば…そうだな、来場者を楽しませることを考える」
一年女子。
「笑わせる?」
二年先輩(女子)。
「つーてもねぇ、めっちゃスベると痛いよ」
二年先輩(男子)。
「めっちゃウケてもまずい。漫才やるとこもあんだから」
委員長。
「漫才組よりウケる自信はないが、その逆はどうだ」
二年先輩(女子)。
「逆って?」
一年女子。
「ホラーですか?」
パンと手を叩く音。
委員長。前のめりに言う。
「そう。放送にホラーを仕掛ける」
二年先輩(男子)。
「昔、歌に変な声がはいってたやつで盛り上がった曲があるみたいな?」
私。
「放送の途中にエコーかけて恐怖をあおるような?」
委員長。
「でも、露骨にやったらだめだ。気づく人が気づくぐらいの小さな仕掛けを散りばめるのはどうかな」
二年先輩(女子)。
「そのぐらいのことって、静かな時じゃないと効果なくない? 校内けっこう雑音多いと思うよ?」
一年女子。
「悪目立ちしたら怒られそうですよね?」
二年先輩(男子)。
「不穏な音をずっと鳴らしとくのは?」
一年男子。
「それ、文化祭をぶっ壊しかねないですよね」
ここでサーッとノイズ。
リバーブがかった女性の声。
「──たすけて」
私。
「ん? 今なにか聞こえませんでした?」
委員長。
「いや?」
二年先輩(男子)。
「なに?」
またサーッとノイズ。
震えた女性の声。
「──ゆるさない」
私。
「ちょっ、聞こえた!」
二年先輩(女子)。
「何、どしたの?」
一年男子。
「風の音じゃないの?」
委員長。
「まあとにかく、その路線でワード絞ってみよう。文化祭を壊さない程度にホラーな放送を、ってことで」
──後日、みんなで持ちよったワードを校内放送に入れ込みましたが、そもそも雑音があり、誰一人として恐怖を感じた人はいませんでした。
でも私の耳には、あのときの女性の声が、はっきりと焼き付いているのです……。
~おしまい~
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