6.母の母の母の母のそのまた母なんて、もはや分からない。

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 黒いモヤは人の頭の形をしている。顔は見えないが、早季が繰り返す『出て来い!』の声に引っ張られるようにズルズルと出て来て、首、そして、肩、胸の形が分かるほど俊昭の背中から抜け出てきた。  まさに人の体から人が脱皮して出てきているかのような光景だった。 「夢月!」  黒いモヤから一瞬も目を離さずに早季が声を上げる。呼ばれた夢月は瞬時にその意図を理解してガクリと体を脱力させる。糸の切れた操り人形のように力の抜けた夢月の体を友香と夕樹で左右から支えると、夢月の体から白いモヤのようなものがゆらりと出てきた。  それは太い縄のような白い蛇で、ぐぐっと垂直に上に昇り、すぐに天井に頭が達すると、俊昭の背中から抜け出てきた黒いモヤに向かって一直線に飛び掛かって行った。  パクッ。  太く大きな白い蛇が裂けるような大きな口を開くと、黒いモヤを頭から咥え込む。そして、俊昭の体から引き千切るように黒いモヤを口に咥えたまま再び天井に向かって昇って行き、蛇の頭が天井に辿り着くと、ぐるりと部屋を囲むようにとぐろを巻いた。  ズズッ、ズズッ、という音が聞こえてきそうな光景だ。白蛇が人型をした黒いモヤを啜るようにして徐々に呑み込んでいく。頭、肩を呑み込むと、次は胴体。黒いモヤの両足がぶらぶらと白蛇の口からはみ出て揺れている。 (ひぃー)  それはまさにジャングルで大蛇が人間を丸呑みにしている光景を連想させた。映画とかでありそうなシーンだ。  だが、友香は思い出す。あの白い蛇は幼馴染だ。 (人型はやめて。ほんと人型だけは!)
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