1.めんどくさい母親とお母さん級に怒っている人形

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1.めんどくさい母親とお母さん級に怒っている人形

「いらないって言ったじゃないの!」  握り締めたスマートフォンを片耳に当てながら祥子(しょうこ)は怒鳴り声を響かせた。  夫の出勤を見送り、二歳になったばかりの娘を近くの公園に連れて行こうと支度を整えていた時のことである。インターホンが鳴り、身に覚えのない荷物が届けられた。  しかも、かなり大きな箱である。長方形の厚紙箱で、娘が中に入って寝そべっても余るほどの大きさだ。  重さもかなりのもので、祥子は玄関で配達員から受け取ると、フローリングの床の上を引きずりながら箱をリビングに運び入れた。  箱の蓋に貼られた伝票の差出人を確認すれば、愛媛に住む父親の名前が書いてある。だが、父親の名前で母親が送ってきた荷物であることは伝票の筆跡で分かった。  ミカンだろうか? いや、ミカンなら先日大量に届いたばかりだ。それに箱の大きさが明らかにおかしい。  しっかりと貼り付けられたガムテープを剝がし、箱の蓋を開けてみた。 「あ」  祥子は思わず短い声を漏らした。  中には気泡緩衝材(プチプチ)にぐるぐる巻きにされた大きな塊が入っていた。  一瞬、子供のミイラかと見誤る。だが、気泡緩衝材から出す必要もなく、祥子にはそれが何であるかすぐに分かった。  それは幼児ほどの大きさの人形だ。  最初に沸いた感情は、これか、という落胆で、そして、それはすぐに怒りに変わる。  まさに瞬間湯沸かし器のような怒りだった。かっと燃え上がった感情は抑えきれないほど溢れ返り、捌け口を求めて祥子の中を荒れ狂う。  いらないって言ったのに!  送らないでって、何度も言ったのに!  あんなに、あんなに、何度も何度も言ったのに!
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