あなたの物語を聞かせて

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「けほっ。けほ……」   薄暗い通路には埃が充満していて、さっきから息をするのが苦しい。俺は着ていたマントの先を口元にあて、前かがみの姿勢で通路を歩いた。  かつん。かつん。俺の靴が地面を叩く音だけが、通路に妖しく響き渡る。この通路の先が、図書館の地下室だ。  ここは異世界・マジックシャイン。魔術師たちが魔法を使って暮らす、平和な世界だ。  俺はエルト、17歳の見習い魔術師だ。今は魔術学校に通っていて、一人前の魔術師になるために勉強をしている。  ある日、俺は友人からこんな噂を耳にした。 「図書館の地下室に隠された禁忌の魔本を使えば、見習い魔術師でも、あらゆる魔法を使うことができる」  その噂に興味を持った俺は、深夜にひとり、魔術学校の図書館に潜りこんだ。  終わりの見えない通路を歩き続けて、もう15分くらい経っただろうか。通路の先に光が差し込んでいるのを見つけた俺は、興奮して、わっと声を上げた。  俺はダッシュして、その光の中に飛び込んだ。   「な、なんだこれは……」  俺は目の前にある光景に、目を見開いた。通路を抜けた俺の目の前にあったのは、高さ5メートルはあろうかという巨大な本棚だった。  本棚は森のように、所狭しと並んでいる。俺は驚きでなにも言葉を発せないまま、その場に立ち尽くした。  ふと俺は、中央にある本棚に目をやった。すると本棚の上段に、赤色に輝く本を見つけた。あれが禁忌の魔本に違いない。  俺は傍にあった脚立を使って、本棚をよじ上った。俺が本を手に取ると、魔本は突然まばゆい光を発した。  俺は驚いて、脚立から足を滑らせた。俺は魔本を手にしたまま、真っ逆さまに落下した。           ☆ 「ねえ。あなた、大丈夫?」  聞き慣れない女性の声にはっとして、俺は目を覚ました。俺の右手には、先ほどの魔本が握られていた。俺は起き上がって、周囲を見渡した。  そこには赤、青、黄色、たくさんのきれいな花が咲いていた。 「よかった、意識はあるみたいね」
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