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それから30分ほどして、引っ越し業者がアパートに到着した。
中身をクーラーバッグに入れて、空になった冷蔵庫や電子レンジといった家電を順番に運び出していく。
部屋の中が段々空になっていくのは、不思議な気分だった。
「ベッドは一度分解して運び出し、引っ越し先で組み立てます」
業者の方に説明され、私は頷いた。
手際よく、彼らがベッドをばらしていく。
別の方が、布団を梱包した布バッグを部屋から運び出した。
「あれ?」
ベッドを分解していた業者の方が声を上げた。
「どうかしました?」
「これ、忘れものですか?」
それは、かなり年季の入った腕時計だった。
私のものではないと確信できたのは、私が腕時計を持たないというのもあったけど、何よりデザインが男性のものだった。
ゴツゴツしていて、銀色の腕時計。
でも錆びていて、とても古いものだとひと目でわかった。
「あ……ありがとうございます」
「ベッドの下は見えづらいですからね。落としたまま行方知れずだったんでしょう。見つかってよかったですね」
違うとも言えない状態だから、ひとまず腕時計を受け取る。
文字盤を見ると秒針が動いていて、まだ生きている腕時計だとわかった。
横についているボタンを押すと、聞き覚えのある電子音が鳴った。
間違いない、これが謎の音の正体だ。
でも、これがそうだとして、この間見つかったホームレスの男の人は持ち主じゃない。
かなり長いこと、この音は聞こえていた。
いつから一体、ベッドの下にあったんだろう。
私は腕時計をぎゅっと握りしめた。
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