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『ピアニストになりなさい』
幼い頃から何度もそう言われて、物心がつく前からピアノに触れていた僕だけれど、ピアニストになれる程の才能は生まれつき持ち合わせてはいなかった。
父さんは若い頃から才能のあるピアニストだった。
僕の代わりと言ってはなんだけど、弟は父さんの才能を受け継いだ子で今では世界中を飛び回る実力派ピアニストだ。
対する僕も、才能が無いなりにピアニストを目指してきた。
5つ下の弟の才能に気づくと以前より僕に対する教育は緩いものになったけれど、それでもピアニストになる為僕なりに頑張っていた。
何よりも、ピアノが、音楽が好きだった。
けれど、高校生の時、僕には無理だと気づいてピアニストの夢は諦めた。
愛されていなかったわけではなかったけど、父さんはピアノに関して僕に期待はしていなかったし。
後悔はしていないし、代わりに俺は音楽を教える為に教師になった。
ピアノも音楽も好きだったからずっとそれらと触れ合っていられるこの職業は僕に向いていると思った。
教師になると言った時、父さんは反対しなかったし、才能のある弟もいいじゃんと言ってくれた。
弟は昔から仲が良かったと思う。
その才能に嫉妬することもあったけれど嫌うことは無かった。
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