31人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
正義の味方なのか、はたまたただの破壊神なのかは見るもの次第らしいが。
彼が興味を持っていると聞いただけで、同業も、そうでない者も震え上がる。ビジネス界の恐怖、【ファントマ・Z】と言う訳だ。
男はまだ三十六歳、その世界では若輩の部類だが。三年前に父親の引退を受けて総帥の地位についてからの僅かな間に、莫大なザットン家の財産を更に十倍にしたという噂の男だ。
金持ち男の居るところ、炎に群がる蛾か蝶のようにオンナが集まるのは古今東西の常識だが、彼の場合も例外ではない。
いつも彼の周りには、眩い美女たちが群がっている。つまり選り取り見取りだ。
そのオンナどもを蹴散らして、ついにファントマ・Zを射止めたと噂になっているオンナが、今夜のパートナーのパリス夫人と言う訳だ。
つまりルイスとテディは、パリス夫人とファントマ・Zが一緒にいるところを隠し撮る為に、一般客に紛れてオペラ座の立見席に潜んでいるのである。
パリス夫人はビーナスも顔負けの魅力的なボディと黒髪で知られたイタリア美人で、小麦色の肌と紫がかった黒い瞳が印象的な未亡人だ。
前回の結婚は、ニ十歳以上も齢がはなれた結婚だった。その大金持ちのユダヤ系アメリカ人の夫を事故で亡くしてから五年が経ち、そろそろ再婚を考え始めているらしい。
つまりハリス夫人にとって、ファントマ・Zとの情事は本気。今回は年齢も二つ違いと理想的だ。
「もしもファントマ・Zが本気なら、大特ダネだぜ」、ルイスが小さな声で呟く。
「ファントマ・Zの結婚かぁ」
「美味しい話だ」
テディが、相づちをうった。
オペラが始まったら私語は厳禁。小さな衣擦れの音さへも周りのひんしゅくを買う。
ため口を聞くのも、今の内だ。
「オッ。やっとお出ましだ」
「テディ、頼んだぞ」、ルイスがハッパを掛ける。
「任せろ」、テディが素早くカメラを構えると、観客の影から隠し撮りを開始した。幕が上がる前のほんのひと時が勝負だ。
その夜のパリス夫人は、他のご婦人方が嫉妬に狂うほどの美しさをまき散らしていた。 見事な黒髪は結上げずに、自然に背中に流している。(後ろの席の観客がパリス夫人の高く結上げた髪のせいで、舞台が見えなくなるのを気にしたのだろうか?)
どうせボックスの後ろの席は全部、ファントマ・Zが買い占めているだろうに。無駄な心遣いだが、気が利く女をファントマ・Zにアピールするためかな。(中々にあざとい演出だ)
最初のコメントを投稿しよう!