信者

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信者

本日の撮影は都内某所の河川敷で行われる。 澄み渡る綺麗な青空のまさに撮影日より。 未来は健二に送ってもらい現場入りした。   「未來~、おはようっ」 「おはよう。護君、敦君」 護と共に未来を出迎えたのは、先日クランクインした中根敦で、未来より二つ年上の長身の爽やかな少年だ。   「おはよ。ってか今日あっついなぁ~。あ、荷物重いだろ?持つよ?」 にかりと人好きする笑顔を未来に見せる敦は、未来の小さな手に持たれていた荷物をひょいと持った。   「日傘いる?僕とってこよっか?」 日差しに少しばかり眉根を寄せた未来に気づいた護が、そう言って小首を傾げた。   「ありがとう。じゃぁお願いしよっかな」 ふわりと柔らかい笑顔でそう言う未来に、護もまた満面の笑みで分かったと答え、日傘を取りにかけて行った。 そんな護の後ろ姿を眺めつつ、何やら一生懸命自分に話しかけてくる敦に返事半ばで対応しながら、未来は陽太の事を思った。 至れり尽くせり自分の世話をしてくれる護と敦。 陽太もこの二人のように自分に忠実になるよう仕向けていかなければならないが、しかし陽太はそもそも素直でいい子そうで、尚且つ自分に好意を抱いてくれているようなので、さほど教育などしなくても良さそうだなと未来は感じる。 だが油断は禁物。 琉空のように口煩くなってしまったら最悪だと、未来はそう思いながら待機場所に向かった。 ※※※ 撮影合間の待機時間。 未来と護に敦、それと優香は、ロケバスの中でスタッフから声がかかるまでをまったりと過ごしていた。 朝早かったのと昼ご飯を食べた事により、急激に睡魔に襲われた未来は、後部座席で窓に頭を預け仮眠をとっていた。 そんな未来の肩を優しく揺らしながら敦が声をかける。 「み~らい。そろそろ起きて?撮影始まるから」 スタッフからそう言われた訳ではないが、しかしそろそろその頃合いだと敦は思った。   「ぅん~…、ねむぃ…」 瞳を一度開いた未来だったが、すぐに再び閉じて毛布に顔を埋めてしまう。   「頑張って?はい、起きよ?」 そんな未来に眉根を下げて笑いながら護が再び優しく覚醒を促した。   「う~ん…、解った…。あ~、ねむぃし喉乾いたな~」 寝ぼけ眼で、それでも体は起こし背筋を伸ばしながら未来がぼやくと   「喉乾いた?お茶ならあるよ?」 緑茶のペットボトルをかざし敦が言う。   「お茶は嫌だな。ジュースがいい」 「ジュース?向こうのロケバスにはあったと思うけど…。解った。ちょっと待ってて?取ってきてあげるから」 未来の要求に嫌な顔せず、寧ろ嬉々として腰をあげた護に未来は満面の笑みを浮かべる。   「ありがとう。待ってるね~」 「っいや、待ってるね~っ、じゃなくてっ。自分で取りに行きなさいよっ。あんたが飲みたいんでしょっ?」 すかさずそう突っ込みを入れたのは、今まで一人読書をしていた優香だった。   「え~、そうだけど…」 「いいよ。未來寝起きだし俺も飲みたいから。優香ちゃんも欲しいなら持ってくるよ?」 ほわんとした笑顔を優香に向けなが護はそう言って彼女に伺いを立てた。   「いや、私は要らないけど…」 「そう?じゃぁちょっと行ってくるね」 「は~ぃ、お願いしま~す」 待っててね、と言ってバスを降りていく護に、未来はひらひらと手を振り応えた。   「はぁ~っ、あんたねっ。ちょっと周りに甘えすぎっ。あんたらもっ、未來を甘やかししぎだし未來の為に良くないと思うけど?」 わざと盛大なため息をついて、優香はきつい眼差しを未来と敦に向けるがしかし   「え~?別にそんな事ないだろ?なぁ、未來?」 暖簾に腕押し。 相変わらずへらへらとした態度のままの敦に、優香の口端が引き攣る。   「でも僕は感謝してるよ?敦君にも護君にも、勿論優香ちゃんにも。皆に助けて貰えてるからありがとうって思ってるし、それに優香ちゃん、大丈夫だよ」 「は?大丈夫って何がよっ?」 天使のようだと皆が皆、骨抜きにされる未来の笑顔を向けられても、優香には通じない。 それどころか何をいきなり言い出すのかと、彼女の眉間には皺がよった。   「何がって、だって僕は我が儘聞いてくれる優しい人にしか甘えないから。皆みたいに」 「っ、なっ…」 いけしゎあしゃあとそんな台詞をのたまう未来に、まさに開いた口が塞がらない状態の優香だったが、そんな彼女の姿が全く視界に入らない敦は   「あ~!未來~っ。お前は本当に可愛いなっ。お前の我が儘なら全部聞いてあげるっ」 がばりと未来を抱きしめ感極まった声を出す敦に、優香の中で何かが切れた。   「ばっかじゃないのっ。あんた何で気付かないの?未來に乗せられてるだけなのにっ!あんたもっ、そんなんじゃいつか絶対痛い目あうんだからっ!」 ぴしゃりとそう断言する優香に、未来はそれでもたじろがない。 「あははは。そうかな?そうはならないと思うけど?」 「は?何で?何でそう思えるわけっ?」 なんなんだこのクソガキはと、言わなくてもわかる優香の瞳をさらりとかわし未来は言った。   「何でって、そんなの僕が可愛いからに決まってるじゃん」 ふふんと鼻を鳴らした後、すかさずなんちゃって、と舌をぺろりと出して茶化した未来だったが、優香は確信した。 本気でそう思っている事を。 しかしそう思ったのは優香だけで、敦は未来のその言動にすら可愛いの一点張り。 そんな敦を見て優香は思った。 恐るべき加藤未来と。
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