1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

「あっ、『チョコレートプリンセス』だ。ねえ私、一度ここのチョコレートドリンク飲んでみたかったの」  わたしの傍らを歩いていたお姉ちゃんが突然足を止めたのは、近頃評判の高級チョコレート店の前を通りがかった時だった。 「お姉ちゃん、今日なにしに来たか覚えてる?お姉ちゃんが土砂降りの日にわたしの靴を履いて駄目にしたから、代わりを買いに来たんだよ?」 「……ああ、そっか。わたしの傘も壊れたから買うんだっけ。……それ、この次にしない?」  わたしは大事な目的をしれっとなかったことにするお姉ちゃんに、内心でイラついていた。  この人は何かに目を奪われると、大事な用事でも即座にキャンセルして目に付いた物で上書きしてしまうのだ。それはもう本当に「忘れてしまう」というレベルに限りなく近い。 「ううう」  わたしが靴屋に強引に足を運ぼうとすると、お姉ちゃんは根を生やしたようにその場から動かなくなった。こうなると「靴と傘を買いに来たお姉ちゃん」とはほぼ別人なので、わたしが何を言っても無駄なのだ。 「行きたいなら行ってもいいけど、お金はどうするの?必要な分しか持ってきてないよ」 「だからさ、買い物は次にしようよ」 「それって無駄遣いでしょ。自分のお金、持ってきてないの?」 「うん、ない……」  わたしは絶望した。もう靴は買えない。せめて高い物を注文しないことを祈るばかりだが、この人はお金がないから節約しようなどとは思わない。一番、欲しい物を気がついたら注文しているのだ。  わたしは買い物の最中「お金、無くなっちゃった……」とまるでトラブルにでも遭ったかのように途方に暮れているお姉ちゃんを嫌というほど見て来ている。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!