1/1
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

「あ、そうだ。なぁ知希、どの指にする?」 「え…っと…。どうする?」  目を見合わせて、2人して黙った。  たぶん、恋人同士のペアリングの定番は右手の薬指、なんだろうと思うけど…。 「…人差し指とか、どう?左の」  両手を胸の前に出して考えていたオレの左の人差し指を、桐人の長い指がツンとつついた。 「いい、と思う」  人差し指、中指あたりがハードル低め、な気がする。  薬指は、まだちょっと照れくさい。  まあ結構べたべたくっついてるから今更、なんだけど。 「じゃ、そうしようか。知希はどんなのがいい?」  目の前にズラッと並んでるリングを見ながら桐人が訊いてくる。 「…指輪なんてしたことねぇもん。分かんない…けど」  桐人の大きな手には、ゴツい指輪が似合いそうだ。  ディスプレイケースの中から、蔦が絡まってるみたいなデザインのゴツめのやつを選んで「これは?」って桐人に訊いてみた。 「お、いいな。あ、でも知希にはもう少し細いのが似合いそうな気がする」  これとか、と割と細めの、ダイヤモンドの表面みたいなカットの指輪を指差した。  お互いに、相手に似合いそうなのを選んでる。  つい、くすって笑ったら桐人もおんなじように笑った。  たぶん同じこと考えてた。    おんなじ、うれしい 「じゃあさ、太すぎず細すぎないのにしようか」  桐人がそう言いながら、さりげなくオレの手に触れた。その長い指に指を絡める。コートがそれを隠してくれるから、寒いの苦手だけど冬が好きになった。  なかなか「これ!」っていうのを決められなくて、桐人が調べてくれてたショップを順番に回った。 「あ、ねぇ桐人」  何軒目かに入ったのは、BGMが控えめなちょっとだけ大人な店だった。オレ1人では絶対入らない、ていうか入れないオシャレな店。  ガラス製の棚板のスタイリッシュなディスプレイ。  キレイに並んだ色々なデザインの指輪たち。その中の一つ。  銀色の、真ん中に黒のラインが入ってるリング。 「これ、よくね?」 「ああ、うん。いいな」  そう言った桐人がちらっと値札を見た。  大丈夫?って思って見上げたら、うん、て頷いてオレの背中をぽん、と叩いた。  幸いサイズが揃ってて、お互いピッタリのものがあった。 「お、似合う似合う」 「うん、いい」  試着の段階で既に顔がにやけてくる。  うれしい、うれしい  指輪を外して桐人に渡すと、桐人がスッとオレの方に長身を屈めた。 「お前、今日可愛すぎてどっか隠しときたいぐらいなんだけど」 「え…」  思わず桐人を凝視した。顔が熱くなってくる。  くすっと笑った桐人が「ちょっと待っててな」と言って会計に向かった。  その背中を見送る。  スタイルのいい後ろ姿。  カッコいい。  兄になりかけた、オレの恋人。  にやにやがバレないように、拳で口元を隠した。 「お待たせ、知希。行こうか」 「うん、腹へったー」  へへっと笑いかけながら、桐人の横にぴたっとくっついて歩く。  ショップを回ってる間に、とっくにお昼は過ぎていた。 「そこ入ろっか」  ちょっとレトロなレストラン。前にも1回連れて来てもらった。 「ここ美味いよね」  少し街から外れてて、時間も遅めだったから席は空いていた。  通されたのは壁際の席。ここの店は席と席の間の仕切りが高くて、半個室っぽくなってるからあんまり人目を気にしなくていい。  そこもお気に入りポイントだ。  クリスマス限定パスタランチを頼んで、ふうっと息をついた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!