エリザベート。

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エリザベート。

彼女は、エアラと名乗った。 やはり発音自体が違うようで、私にはそう聞こえたが、エアラと呼ぶと少し不満そうな顔になった。 だが、違う世界の人間だから仕方ない、と受け入れたようだった。 エアラの案内で、建物の中を歩く。 せりがぴくぴくとひげを動かしながら、彼女の隣を歩いている。 私は、建物の内部の様子を見回した。 んー? 私が元々いたあの世界より文明は進んでいたように見えるが……。 それにしては、持っていた銃はレトロというか、私の知っているものよりだいぶ昔のデザインだった。 いや、まぁ、私もドラマとかでしか銃なんて見たことはないが。 滅びかけているのではなく、すでに一度滅んでいるのか? 昔のものを再利用しているだけで、今の連中には造り出す力がないのだろうか。 「ここデす」 壁にあるパネルのようなものに、エアラが触れる。 しゅんっ、とドアが開いた。 「!」 中に入ると、真ん中に小さな檻が置かれ、黒い翼の生えた女の子が凛と顔を上げて座っていた。 周囲には無造作にたくさんの檻があり、獣人達が疲れきったようにうずくまっている。 やはり、翼をもがれたり、足を切られたりしているようだった。 「エアラ! 大丈夫でしたか?」 黒い女の子が、エアラを見てこちらに近づいてきた。 小さな小さな檻の中で、それはわずかな動きでしかなかったが。 「うん、大丈夫。猫の人、来てくレたよ」 エアラの言葉を聞き、黒い女の子はゆっくりと私の方を見た。 「……猫の人、ですの?」 「うん、まぁ……」 黒い女の子が、私の足元にいる猫達を見た。 「……皆様、助けが来ましたわ! 言ったでしょう、猫の人が来てくれたって!」 女の子が叫ぶ。 獣人達が顔をあげた。 もしかしてという、かすかな希望がその顔に浮かんでいる。 「私、吸血族のエリザベートと申します」 愛らしい笑みを浮かべながら、黒い女の子はそう名乗った。 「うん。ヴラドに頼まれて、助けにきたよ」 「お兄様に聞いていましたわ。魔王様をお助けするために、すごい猫達を連れた人が来てくれたと」 「うん」 「ですから、私達のこともきっと……」 笑みを浮かべていたエリザベートの唇がぶるぶると震えた。 「助けに、助けに……」 小さな手が、黒いワンピースの裾をぎゅっと握りしめる。 「絶対に、助けに来て……」 エリザベートは顔を歪ませて、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。 「うん、助けにきたよ。もう大丈夫だから」 私がそう言うと、エリザベートはわんわんと声をあげて泣き出した。
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