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「声をかけとけばよかったんじゃないですか?」
「将宗は無理を言うね」
「見ず知らずの奴に話しかけられたら、不気味だろ?」
「ま、時と場合によりますけど」
「で、ボクが何もしなかったのかというと、そっと近寄ってその子の後ろから右耳にささやきかけた。一言だけ」
こっちの方が不気味じゃないかとは言えなかった。
「なんて?」
「それは教えない。さっき図書館でと言ったけれど、それより前には公園で。たまたま押してと頼まれ、君の乗ったブランコを押しながら。でも、何もできなかった。図書館での次の年は駅のキッズルームで試みたけど、ボクの気配で逃げられて……。最後が中学生になったその姿を駅前で偶然見つけて……」
初恋の話は誰にもしていないはず。なのに、図書館、駅前、オレの中で導き出される答えが間違いであればいいと思いながら訊いた。
「本当にその子だとわかったんですか? それでどうしたんですか?」
前を歩いていた高橋さんが立ち止まって、後ろにいたオレに向き直った。
「中学生になってグンと背が伸びていたのには驚いたけれど、毎夏、探し求めていたその子をボクが見間違えるはずがない。だから、少しだけ腕を引いて顔を近づけて、右耳を狙って……」
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