序章 ~出会い~

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序章 ~出会い~

 届かない思いとわかっていた思いは、  パキッ  と、音を立て、崩れ落ちる。  仕方ないことないことだったのだろう。私は彼女の、下位互換だ。 「はぁ……。やっぱりだめかぁ……」  私は思い足取りで誰もいない教室に戻っていた。 「あ、優月さん。今日も自習ですか?」 「……えぇ。今日は大体2時間ぐらいで」 「?いつもより長いですね。いつもは大体――」  受付の人の話に聞く耳を持つことなく、教室に入る。  やはり、誰もいな……。  見慣れない男子生徒がそこに、いた。  普段勉強好きでさえ休み時間には使わない成績優秀者たちでさえ使うのは放課後だ。それ以外は授業にしっかり出ている。  ……私のような劣等生とは違って。  それでも、いつもと変わらない。私の定位置になりつつある窓際の席に座り、カバンからテキストと自習用ノートを取り出す。  ……2時間で足りるかなぁ……。  そう、思うが、足りる足らないじゃなく、終わらせなければならないのだ。  さて、さっそく始めますか……。  極限まで集中していた私は、時間を確認するために集中を解く。  2時間を優に越していた。 「やばっ!?さすがに怒られるかな……」  恐る恐る教室の扉を開くも、そこには誰もいなかった。  少々の安堵を覚えていると、こちらからは少し離れた場所から音が近づいていくる。  まずい……、見回りの時間に入っちゃったか。  この時間だと稀に普段より早く見回りをするのだが、今日に限ってその”稀に”が重なってしまった。  正直、担任と鉢合わせする程度なら帰宅を促されるだけだが、生徒指導の教師と遭遇なんかしたら最悪中の最悪だ。  女子からの評判もすこぶる悪く、非行する生徒にはもはや体罰に当たることをするのだ。  つまり、見つかれば一巻の終わりだ。  どう逃げようか考えている間にも音は徐々に大きくなっている。夜中であれば対処法はごまんとあるが、微妙に日が残っているこの状況下では暗闇に紛れて、という方法も不可能。  さて、どうしたものか……。  そう思っていた時だった。  突然肩に手が置かれる。  急な出来事に悲鳴を上げそうになる口を無理矢理閉ざして手を置いてきた張本人を睨む。  先ほどの男子生徒だった。 「……君、ここから隠れて逃げたいの?」 「へ?ま、まあそうだけど」  こんな会話をしている間にも近づいているはずなのだが……。 「僕、いい逃げ道知ってる。教えようか?」 「え、お願い!」  ほぼ万事休すの状態だった私にとっては乗らない手はない。 「わかった。着いてきて」  そういうと音もなく彼は走り出した。この学校の上履きって音なりやすいはずなんだけどなぁ……。  彼のおかげで、何とか校舎から逃げ出すことに成功した。  お礼を言おうと思ったが、いつの間にか距離を離されていた。声をかけるにも私の声量じゃ虫の羽音程度だろう。  次会ったときはきちんとお礼を言おう、そう私は決心して帰路に着きはじめ――。 「おい、優月!この時間まで校舎内で何してる!こっちこい!」 「や、やばいっ」  逃げるが勝ちだと本能で察知した私は即座に足を動かした。  結局後日、みっちり説教された。
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