友達からの依頼

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友達からの依頼

 大学二年になり、ノゾムからある相談を受けた。 「トモ! 頼みがあるんだ」 「えーー! ヤスユキ先輩に話しかけて引き留めろだって⁈ 俺、ヤスユキ先輩と話したことないよ~!」  相談内容というのは、サークルに来なくなったマシロを人物画のモデルにしたいが、いつもヤスユキ先輩がいて話ができないから引き留めておいてほしい、というものだった。ヤスユキ先輩は僕と同じダンス専攻の三年生で、だから話しやすいだろうとノゾムは依頼してきたのだった。  ゴチャゴチャ話していると、そこにキッカが通りかかった。 「アンタたち、何騒いでんの?」 「わー、いいとこに来た、キッカ姐さん、僕たちを助けて!」  ノゾムがキッカに訳を話した。 「いいよ! マシロも心配だったし、ヤスユキ先輩めちゃくちゃダンス上手いから一度質問したいと思ってたんだ! 山のように訊きたいことあるからまかせといて!」 僕とキッカはノゾムの依頼を引き受けた。次の講義に行きながら話す。 「キッカって、ヤスユキ先輩と話したことあるの?」 「うん、何回かだけどね。めちゃくちゃすごいよ、あの人。あんなに体中の筋肉の一つ一つに神経を行きわたらせて動かす人はいない。トモもいつか見てみてよ!」  キッカがそこまですごいという先輩ってどんな風に踊るんだろう。そのヤスユキ先輩を僕は引き留める時にじっくり見ることになる。  大学の広い吹き抜けのホールに点々とソファが置いてある場所。いつもマシロとヤスユキ先輩は壁際のところにいるとノゾムから聞いた。 「マシロはどこだ……? あ、あそこにいる。あれがヤスユキ先輩か~」  痩せていて、すんなりとした体つき。細面の綺麗な顔立ち。なのに首筋は太くしっかりと張っている。踊るのに必要な筋肉だけがついている身体。  僕最近鍛えすぎちゃって腕が太くなってるけど、やっぱり要らないのかな、なんて思う。  キッカは、 「私、質問ならいくらでもあるんだ。たくさん話せるなら嬉しいな。いい機会もらっちゃった」 なんて言っている。僕隣にいるんですけど。全然相手にされてないんだろうか。ちょっと凹んだ。 「ナカノヤスユキ先輩、ですよね? 私、ダンス専攻二年のオノウラキッカです」 「同じく二年のハネダトモです。マシロちゃんとは同じサークルでした。マシロちゃん久しぶり」  マシロがうん、とうなずいた。 「ああ、こんにちは。何かな?」  ヤスユキ先輩は、僕がマシロと同じサークルだった、と言うと少しだけ眉を動かした。余計な事を言ったかな。もうマシロはサークルにも来ていないし、気にすることは無いと思うけど。 「あの、ヤスユキ先輩の踊り見て、すごいなって思って……是非色々教えていただきたいと思って、勇気を出してこうしてお声掛けしてみました!」  キッカの顔が少し上気している。憧れの先輩だもんなあ。  そして本来の目的は、マシロをノゾムの所に行かせることだ。僕も質問をして、二十分ほど経った。そろそろかな。僕はマシロに言った。 「マシロちゃん、次の講義は大丈夫? もう十五時過ぎてるよ?」 「あ、」 とマシロは僕の目配せに気づいたようで、 「ヤスユキ兄さん、講義あるから行ってきます」 「ああ。気をつけろよ。ここで待ってるから」  キッカがガッチリ質問攻めにしてヤスユキ先輩を捕まえている。マシロはパタパタと走ってノゾムの待つ3号館の方に向かった。よし、作戦成功!  作戦は無事成功したけれど、キッカの質問は終わらない。結局一時間ぐらい話していた。 「あの、ヤスユキ先輩、また教えてもらってもいいですか?」  キッカが少し恥ずかしそうにヤスユキ先輩に話す。ええ⁈ キッカってこんな顔するんだ……。今まで見たことないよ、こんな恥じらう表情。 「いいよ、俺で良ければ。俺二年の時にそこまで考えて踊ってたかなあ。君たちは偉いな」 「いえ! そんな!」  僕とキッカが同じ言葉をハモった。 「あはは、君たち一緒に踊ったら合うかもね。また会おう」 「ありがとうございました!」  ヤスユキ先輩に礼を言ってその場を離れた。 「これで、ノゾムとの約束は果たせたかな」 「そうね! おごりのスイーツ楽しみっ!」 こんなにテンション上がってるキッカを見たことが無い。クールな子だと思っていたのに、意外だった。  でもそれって、ノゾムがお礼してくれるスイーツが嬉しいの? それともヤスユキ先輩が素敵だから?  少しだけ胸がチクリと痛んだ。
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