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桜舞う
桜が咲いた。特別なその花は桜の花。
桜の下でもう一度と約束をした。何度も、何度も、約束をした。卒業しても、どんなに離れた場所に行っても、別の生き方になっても、絶対にまたここで逢おうと、同級生たちは約束した。
待ってるから。
戻ってくるから。
絶対、絶対、この場所に帰ってくるから。
桜の下で約束をした。
だから、約束が果たされるのもこの場所だった。
今年も桜が咲いた。
誰かが戻ってきた。帰ってきた。
あるべき場所に、還ってきた。
でも、まだ誰かが足りなかった。
またあいつ、遅刻するな。
だってあいつだもん。
まあ、気長に待とうよ。
もうすぐ彼の話が始まる。
彼のとっておきの話。
彼が生きてきて手に入れた、とっておきの話。
同級生たちは、待っている。
彼が、彼らがまた桜の下にやって来ることを。
桜が咲いた。
最期を彩る美しい花が、彼らの頭上からやがて降り注いでくる。
『さあ、今こそ皆が集まり約束をば果たそうぞ。
宴の時間じゃ。桜が下に、いざ集まれ。』
彼らのとっておきの話が、今、始まる。
「待たせたなっ、みんな!」
桜は咲いた。
彼らのために、今、散り始めた。
同級生がやって来る。
約束を果たしに、命を真っ赤に染めてやって来る。
足元は赤く染まっていた。桜の木の下も赤く染まっていた。
それでも、彼らの足取りは誰もが軽かった。
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