銀世界の迷い子

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 ストーブの上で餅が膨らんではぷちんと弾けている。そろそろ食べ頃だが、餅に気を取られて油断する訳にはいかない。  異世界人の不意打ちに備え、何か武器はないかと腰のポーチを探る。現在の持ち物の中で最強の攻撃力を持つものは。  出てきたのは、ボールペン。しかも三色のやつ。果たして、三色ボールペンで異世界人と戦えるだろうか。むしろ素手の方が強いのでは。  赤青黒のうち、どれが強そうか考えていると、彼は餅を皿に移し始めた。器用に箸を使っている。元々の器用さなのか、これもまた、日本人から奪った技術なのか。  彼は餅を載せた皿をこちらに差し出してきた。わたしはボールペンを装備中だったが、ひとまず空いた手で受け取って様子を見る。  彼は続けて小皿を二つ手にとって、わたしに見せてくる。右手には醤油、左手にはきな粉が入っている。 「きな粉プリーズ」  餅にはやっぱりきな粉である。いや、醤油も捨てがたいのだが。  気がついた時には、彼がくれた割り箸で、あつあつの餅を頬張っていた。しかも丁度いい塩梅で砂糖が混ぜてある。出来るな、この異世界人。
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