Don't catch me if you can.

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「ムキマラ。本当にここにあるんだろうな……」 ハウスメーカー・セゾンエスペースでマネージャーを務める紫雨秀樹は、本来ならライバルであるはずのファミリーシェルターの課長である牧村の肩にしがみつきながら、そのドラックストアを見上げた。 「そうですよ。ってなんで俺が連れて来なきゃいけないわけ?」 そう言いながらも紫雨の腕を支えてあげる牧村は、腹の底からため息をついた。 「だって、一人じゃ恥ずかしいだろ!こんな歩き方でワセリンとか!!」 「あのねえ」 牧村は目を細めた。 「ワセリンをいやらしい目で見るのなんて腐女子くらいですから。本来は敏感肌の人とか、赤ちゃんが使う保湿剤ですからね?」 「でもケツにもいいんだろ?」 紫雨が大真面目な顔で言った。 「あんたね……。その理屈でいったら、俺と二人でこんなに身体密着させていく方が恥ずかしいでしょうよ」 「しょうがないんだろ!歩けないんだから!!」 そう言ってから、紫雨は牧村を振り返った。 「……てか今さらなんだけど、どうしてお前は詳しいの?」 「はあ?」 「お前もケツ切れるの?」 「いや、俺は……」 「そんなにデカマラなの?吉里さんは」 「俺のことはいいんですよ!」 牧村は顔を真っ赤にして言った。 「そもそも、紫雨さんこそどうして切れたんですか?痔!?」 「違うって。……ああ、思い出すのもイヤ」 紫雨は項垂れながら話し出した。 「俺が、知り合いに家を売ったから」 「……は?知り合いに家を売ると、イコールどうしてケツが切れるんですか」 牧村は口をポカンと開けた。 「そいつが元セフレだったのがバレて、林がキレて、結果俺のケツも切れた」 「……うーん。なるほど」 それ以上聞かないことにした牧村は、自分を奮い立たせるように紫雨の腰に手を回した。 「じゃあ行きますか!とっとと済ませましょう!」 「おう……」 2人は抱き合うようにドラックストアに入っていった。
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