6:番外編

34/40
440人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
 そんなことはありません、と否定することはさすがにできなかった。黙ったテオバルドに視線を向けることなく、アシュレイは続ける。 「なにか言いたいことがあるなら聞くが。どうかしたのか?」 「いえ」  反射で首を振ったところで、テオバルドは口をつぐんだ。たぶん、本当にどうかしているのだろう、と思うだけの自覚はあった。  それで、この人には理解のできない感情だろうな、ということも。この人は、みっともない妬心とは無縁の世界に生きている。そういった高潔なところにも憧れていたし、好きだった。  でも、と思ってしまいそうになる屈託に蓋をし、どうにかほほえむ。 「そういうわけでもないのですが」  数日前、森の家でも使った曖昧な否定だったが、アシュレイは頷いただけだった。 「なら、いいが」  あっさりとした、きれいに線を引いた調子。また一枚、ぱらりとページを捲る音が響く。  幼い子どもではないからこそ、こちらの意思を尊重して退いてくれたのだとわかっている。それなのに、蓋をしたはずの感情が顔を出しそうになるのだ。本当にみっともない。  ……自分と同じように嫉妬してほしいなんて、言えるわけがないな。  そもそも、場所が場所だ。そう思い、気持ちを切り替えようとした瞬間、かすかな物音が一般書庫のほうで聞こえた気がした。そうして、同じくらいかすかな同士の気配。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!