6:番外編

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 興味のある本の名前を挙げながら、魔法書庫を見て回ってたアシュレイが、なにかを思い出したようにふっとほほえんだ。  珍しい表情の変化に、頼まれた本を手渡しながら、ストレートに問いかける。 「どうかされましたか?」 「いや、エレノアが言っていたことを思い出したんだ。おまえが戻ってくると、率先して動いてくれるから助かる、と。よく手伝っているらしいな」 「それは、まぁ」  母の手伝いとは心境はかなり違うのだが、アシュレイの言い方からすると、まったく同じものと思われている気がしてならない。  苦笑いになりながらも、テオバルドは当たり障りのない理由を口にした。 「母もいい年なので」 「俺はそのいい年の母の先輩にあたるわけだが」 「……そうでしたね」  母の先輩で、父の同級生。自分より遥かに長い時間を生きている人。わかっているはずなのに、ふたりでいると、この人の本当の年齢も、この人の生きてきた時間の長さも、不明瞭に感じてしまうことがある。子どもだと思ったことはない、ということとは別の次元の感情で。  自分の願望なのかもしれない。  次はなにを思ったのか、またひとつ苦笑のような笑みを浮かべたアシュレイが、受け取った本をぱらぱらと開いた。  紙面に目を落としたまま、呟くように言う。静かな声だった。 「最近のおまえは、いやに煮詰まった顔をしているな」
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