2/2
181人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
(……何だあいつ)  間宮は男に気付いた様子なく、そのままバス停に向かってゆく。  すでにバスは着いていて、間宮は開きっぱなしのドアに駆け込んだ。ICカードをパネルに当て、大きく息を吐く。その時、視界に入った運転手の姿に、俺はぎょっとした。制帽の下に黒いケープのようなものを下げ、顔を隠しているのだ。  乗客は五人しか乗っておらず、車内はがらがらだった。皆、黒のケープを被り、そろって首を垂れてうつむいている。  明らかに異様にもかかわらず、間宮は気にもしないようすで座席に向かう。もしかして、同じ展開の夢を何回も見ているのかもしれない。  なんだかぞっとしながら間宮の視界越しにあたりを眺めていると、一番後ろの端の席に座った男がケープをかぶっていないことに気付いた。  ぎくりとした。あの浮浪者然とした作業着の男だった。無表情でじっとこっちを見ている。  間宮は降車ドアに一番近い、中ほどの席に座った。視界から外れ、男の姿は見えなくなる。  ——出発します。お立ちの方はおつかまり下さい——。  合成音声の放送が入り、ドアが閉まった。  背後——というか、男の姿が見えないのがなんだか怖かった。  背後から何かされないか。すぐ後ろにいたらどうしよう。いや、何をされたってそれは所詮夢の中の話なのだ——。俺がそんなことをぐだぐだと考えている一方で、当の間宮は膝の上で拳をぐっと握りしめ、フロントガラスを見据えていた。  何個目かの停留所で、間宮は停車ボタンを押した。  ――次、停まります。  単調な車内アナウンスが入った。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!