花と夢と久保田くん

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東京―― 私、鳥飼(とりがい)香奈(かな)がこの街に住みはじめたのは一年前。 希望に輝く春だった。 山と緑に囲まれたのどかな土地で生まれ育った私は、地元に近い地方都市の美術大学を卒業したあと上京し、新宿区に本社を構える広告代理店に就職した。 子どもの頃から東京にあこがれていた私。 いつかきっと、あの街で生きるのだと夢見ていた。 恋も夢も、魔法のように花開く。素晴らしい何かがあるに違いない。毎日楽しくて、華やかで、そこに身を置きさえすれば、刺激的かつ有意義な人生が約束されるだろう。 今考えると、有名なテーマパークのイメージとごっちゃにしていたのだ。 おとぎ話の主人公のように、ドラマチックなエピソードを重ねた末、素敵な王子様に見初められ、本物のお姫様になる……みたいな。 思い違いに気付いたのは上京して間もなくだった。
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