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天罰覿面天罰覿面。
それなりのことをしていれば、まあ仕方ないな、と思うものだ。
だよねぇ、ねえさん。
そう清々しい声でいった弟は、親殺しの天罰か、化けものになっていた。
ひとの頭に牛の身体。
まいったな、と私は吐き捨てる。
あはは。
弟の幸哉は笑う。
ねえさんたら、またそんなかおしてぇ。
幸哉の声が間延びして聞こえる。
私は目を閉じ、眉間を揉んだ。耳鳴りがする。ひどい頭痛がしていた。
あれ、ねえさんたら、またあたまいたいの。
弟が心配そうに訊ねてくる。
私は唸り声を返事にした。
ねえさん、リラックスしてぇ。
幸哉は優しい。昔から。
牛のひづめが畳をこする音がする。牛の身体になった弟は重い。
目を開けると、にじり寄る雄々しい牛の身体がある。気遣わしげに曇った弟の顔がある。目が合う。澄んだ瞳に配慮をにじませた幸哉が、こちらをうかがっていた。
弟が畳の上を動くと跡が残る。青々としていた居間の畳の表面は、ささくれ、荒れ、手入れのなっていない芝みたいになっている。無数の棘を植えつけたようでもあり、危なくて迂闊に手をつくことはできない。
天罰覿面。
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