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「ちょっと待てよ、円!!」
友也の声にピタッと足を止めたけど、涙を堪えて口がへの字に曲がった私はまだ振り返れない。
そうだ。ここで友也にちゃんとフッてもらわないと、また私は未練たらたらで生きていくことになる。
こんなのまだ玉砕とは言えない。
よし!と気合いを入れて振り返ったら、驚いたことに友也の目が真っ赤に潤んでいた。
「なんだよ、それ? あのキスの後、大泣きしたのは俺の方だよ。円がヘラッと笑って『お邪魔しました』なんて言うから、俺なんか全然お呼びじゃなかったんだなってショック受けて3日間寝込んだんだ」
「へ? だってあの子と付き合ってたんじゃないの?」
「は? 全然! 見知らぬ女が訪ねてきて、『電車でいつも見てました。好きです』っていきなりキスしてきたんだ。円が現れなきゃ、突き飛ばして殴ってたよ、あんな女」
「じゃあ、なんで私にそう言わなかったのよ」
「円だって! ……って、俺たち独り合点して失恋してたのか」
2人の口から同時に「あーあ」とため息まじりの声が漏れた。
いつの間にか日が暮れて、駐車場の周囲の木々もライトアップされた。
「とにかく寒いから乗って」
友也に促されて車に乗り込んだけど、狭い車内に友也と並ぶとドギマギして何を話せばいいのかわからなくなる。
エンジンをスタートさせた友也はこのまま家に帰るつもりのようだ。
結局、友也も私を好きだったけど、それは高校時代の話で今は違うってこと?
友也が私の彼氏や上司に「円を大切にしてくれ」って言って回っていたのは、幼馴染に対する過度な親切心からであって、元春たちが推察したような恋心ではなかったんじゃない?
そうだよ。本当に友也が私のことをずっと好きでいたのなら、彼氏に「円は俺のものだ」ぐらい言っても良かったはずだもん。
……いや、それは友也の性格的にあり得ないか。
悶々と考えていたって仕方ない。
「ねえ、友也は今、私のこと」
どう思ってるの?と聞こうとしたのに、「ちゃんと家に送るよ。それからあれは俺のファーストキスじゃないからな」とまた友也が変な見栄を張り出した。
「あっそ。友也はモテるから、もっと早く経験してたわけね」
そんな話は聞きたくないのに、友也は「あれは幼稚園の年少のとき」と語り出した。
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