いつかのFirst Love

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「円、もしかして知ってたのか? 元春たちの計画を」 「え? 友也も聞いたの? 私は前田くんから教えてもらったんだけど」 「俺は円が前田と出かけた後、叔父さんのところに散髪しに行って聞かされた。バカげた計画だよな。本人たちの気持ちを無視して勝手に円を連れ出したりしてさ」  ムッとしたように眉を寄せると、友也はまた歩き出した。車を停めてあるホテルの駐車場に向かっているらしい。  ラウンジで温まった身体と心が急速に冷えていく。  半歩遅れて歩き出した私は「そうだね」とは言えずに、「でもさ、みんなの気持ちは嬉しかったよ、私は」と呟いた。  この暮れの忙しいときに他人の恋のために連絡を取り合って、わざわざうちまで来たりして、私の元カレたちは良い奴ばかりなんだ。上野課長も。  雪はもう止んでいたけど、ホテルの屋外駐車場に停めてあった友也の車のルーフにはまだ薄っすらと雪が積もっていた。  私の言葉の真意をはかりかねたみたいに、友也は戸惑った顔で私を見ている。 「ねえ、憶えてる? 高3の年末に私が手袋を落として、友也が捜してくれたこと」  緊張しながら問いかけると、友也は「ああ、そんなこともあったな」と頷いた。 「たぶん私はあのとき恋に落ちたんだと思う。もちろん友也のことはずっと好きだったけど、あの瞬間私の中で何かが変わったんだ。でも、恋をしたことのない私には、それが恋だとはわからなかった。だから、友也が知らない女の子とキスしてるのを見て、初めて自分が友也に恋をしていたことに気づいたの。あの後、私、泣きながら帰ったんだよ。元春には初恋を引きずってるって言われてフラれた。ずっとそう。誰と付き合っても、やっぱり一緒にいたいのは友也なの」  一息に言い切ったけど、最後の方は泣きそうになってしまった。  高校生だった自分の感情と、今の自分の気持ちがシンクロして、熱いものが込み上げる。  でも、前田くんたちに背中を押されなければ言えなかったと思うから、何だかすっきりした気分だ。  よほど意外だったのか、友也はじっと私を見つめたまま何も言わない。  玉砕かな? 友也が誰かと付き合っているのなら、「ずっと好きだった」なんて告白されても迷惑だもんね。 「ごめん、なんか気まずいよね。私、電車で帰るわ」  じゃあねと手を振ってクルリと踵を返した。  まだダメだ。まだ泣いちゃダメ。せめて駐車場から出るまでは。
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