いつかのFirst Love

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「年少? って3歳? うわっ、ませガキ……」 「ませガキは円の方だ。円が幼稚園に迷い込んだ猫を追いかけて、園庭のトンネルに入ったことあっただろ?」 「あったっけ?」 「やっぱり憶えてないのか。トンネルに入ったはいいけど、暗くて怖くて出られなくなった円を俺が手を引いて出してやったんだ。その時、『ともくん、大好き』って言ってキスしてきただろ? あれが俺たちのファーストキスだよ」 「いやいや、それってほっぺにでしょ?」 「唇に」 「マジ⁉」 「マジ」  ひゃあ! それはませガキだわ。  途端に顔が燃えるように熱くなった。  車内がエアコンでいい具合に暖まってきたのもあるだろうけど、3歳にして友也の唇を奪っていたなんて恥ずかしすぎる。 「でも俺が円を好きになったのは、それよりずっと前なんだ。初めて恋に落ちたのがいつかなんて、全然思い出せないぐらいずっと前から好きだった。だから、好きな子にキスされて凄く嬉しかったし、ますます円に夢中になった」  「今でもそうだよ」と囁くように言った友也の声が甘すぎて、一瞬で蕩けた私はシートに沈み込んだほど。 「円のことが諦められなくて、彼氏にフラれたって聞くたびに告白しようって思うんだけど、告白する前に『次の彼氏が出来た』って報告してくるだろ? で、どんな奴だよって会いに行くと、揃いも揃ってみんないい奴でさ。円は男を見る目があるよな。俺なんかよりずっといいじゃんって落ち込んでの繰り返し。だから、さっき円から初恋の相手が俺で、ずっと初恋を引きずってたって聞かされて、口もきけないぐらいビックリしたんだ」 「あれはそういう沈黙だったの? 何も言ってくれないから、てっきり玉砕したかと思ったじゃん!」  じわじわと嬉しさが込み上げてくる。  ずいぶん回り道したけど、どうやら私たちの初恋は実ったみたいだ。  赤信号で停車した車の中で、友也がブレザーのポケットから何かを出してきた。 「これ、受け取ってくれる?」  差し出された小箱を反射的に受け取って、「ありがとう。何? クリスマスプレゼント? ごめん! 私、何も用意してなかった」と謝った。  そうだよね。クリスマスイブに一緒にバイキングに行くんだから、ちょっとしたプレゼントぐらい買っておけば良かった。  本当に私って気が利かないって言うか、友也は気が利きすぎるぐらい気が利くんだよな。  申し訳なく思いながら、綺麗にラッピングされた紙を剥がして箱を開ける。 「え⁉ ちょっと……どうして?」  ビロードの箱に入っていたのはシルバーの指輪で、小粒なダイヤモンドが煌めいていた。これは……誰がどう見たってエンゲージリングだ。 「あいつらにセッティングされなくても、今度こそちゃんと告白する気で準備してたんだ。円、一生大切にするから、俺と結婚してくれませんか?」  友也が急に男らしく見えて、感極まった私は指輪の箱を抱きしめたまま「はい」と頷くのがやっとだった。  どちらからともなく顔を寄せ合ってキスをする。  初めてじゃないのに、震えるぐらいのキス。  青信号に変わった交差点で、後ろの車たちが鳴らしたクラクションが私たちを祝福しているみたいに聞こえた。 END
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