勇者に捧げる食事

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勇者に捧げる食事

 大晦日(おおみそか)だ。家族はみんなこたつに入って紅白歌合戦を見ている。うちの家族は両親とじいちゃんと、私。 本当は五人家族だったけど、今は一人欠けている。 弟は六年前に旅立った。 ・・・異世界に。 高校生だった弟は、自転車に乗っているところをトラックにはねられるという、実にベタな方法で異世界転生した。 弟の転生は、左足のスニーカーが残されていたことで確認された。スニーカーが虹色に光り輝いていたのだ。 災害時に役立つくらいの輝きだった。 これを、『転生者遺物』と呼ぶ。これがなければ転生者とは認定されない。 転生者の存在がささやかれ始めたころ、転生をよそおった殺人事件が相次いだ。だから、国は「遺物」を残さない転生は認めない方針をとった。 弟は、公式に認められた36例目の転生者だ。 弟のスニーカーは床の間(とこのま)に置かれている。未だに光り輝いているから、リビングや寝室に置くと眠れなくなる。物置に置いたらうっすらとした光が漏れてきて、お化けがいるみたいで気味が悪い。 どこに置こうかと悩んでいるとき、「遺物」が輝いているのは転生者が異世界で元気にやっている証拠であるといううわさが流れてきた。 都市伝説とも迷信ともつかない噂だったけれど、大喜びした両親が床の間に置いたのだ。
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