コウサツロスト

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 私は遠くなっていく健司の背中を見つめながら混乱していた。一体何がどうなってしまっているんだろう。 「僕たちも帰ろうか」  椿が微笑みかけてくる。私はただ呆然とうなずくことしかできなかった。歩き始めた椿に置いて行かれないように付いて行く。 「どうして、健司は唯をころしちゃったんだろう。そこまでする必要はなかったと思うのに」  私が先に歩く椿の背中に話かける。 「さぁ。どうしても留美には知られたくなかったんじゃないかな。それぐらい留美のことを好きだったんだろうね。でも、人を殺すことは絶対に許されることじゃない。人を殺す人こそ生きている価値がないと僕は思う。何より、僕は犯人に問いただしたい。人を殺した自分を許せるのかって」  強い言葉で椿が言う。そこには強い意志が感じられた。私はその雰囲気に気圧されながらも言う。 「なら、初めから私にアプローチなんてかけてこなければよかったのに」  事実、私は健司に言い寄られていた。しかし、何度か二人で出かけたことはあるが健司とそういう関係になったことはない。 「そこはほら。恋愛って複雑な感情なんでしょ。僕はあんまり恋愛とか分からないから何とも言えないけど」  頭の後ろで両手を組みながら椿は歩き続ける。 「……でも、私が浮気していなかったのは本当だよ。だって、私が好きなのは……椿だから」  先ほど健司に遮られて言えなかった言葉を口にする。一世一代の告白だった。こんな時にいうべきじゃないとも思うが、こんな時だからこそ言えるのだともおもった。心臓が張り裂けそうなほど何度も何度も脈打っているのを感じる。椿は何も言ってくれない。振り向いてもくれない。ただ歩みは止めてくれていた。  何秒か。それとも何分か。永遠とも思える長い時間に感じられた時間の後、椿がゆっくりと口を開く。 「さっきも言ったけど、僕は恋愛感情っていうのがよく分からないんだ。それはまだ僕の精神が幼いだけだからかもしれない。でも、その感情は凄いと思う。だってその人のことを好きだから助けようともするし、追い込もうともする」 「え? 何?」  突然の椿の言葉に私は戸惑う。 「留美はね。健司が歩のことを好きになっているということに随分前から気が付いていたんだ。だから、陥れようとした。裏切った健司に復讐しようとして、健司に唯殺しの罪を着せようとしていたんだ。たぶん、あの日みんなと別れた後、留美は唯の家に行ったんだと思う。その理由は後で話すけど、その時にすでに殺されている唯の死体を発見した。  その時に思いついちゃったんだろうね。唯はもともと不眠症だったから睡眠薬を飲んでいることが多かった。あの日もきっと飲んでいた。だから、自分の持っている睡眠薬をワインに入れておけばワインに入っていた睡眠薬を飲まされたんだと思わせることができるって」 「どうしてそんなことを?」 「健司に罪をかぶせられると思ったんだろうね。あの睡眠薬は健司が留美に飲ませてあげる為に研究室から持ち出したものだ。処方される睡眠薬ではあんまり効かない体質だったみたいだからね。留美は。健司が持ち出した睡眠薬がワインから検出されれば健司がワインに睡眠薬を入れたと思うだろ?」 「そんなの健司が否定すれば終わりじゃない」 「否定されないって確信してたんだよ」 「どうして? 留美が唯の家に行ったのは健司の後をつけたからなんだろうね。きっと健司は浮気のことは黙っていてくれって唯に言いに行ったんだと思う。そこで……」 「揉めて殺した?」  私の言葉に椿は首を横に振る。 「健司が到着した時にはもう唯は殺されていたんだよ。だから、健司は物取りの犯行に見えるように現場を偽装工作をした」  私は衝撃を受けていた。 「どうして」 「それも恋愛感情なんじゃないかな。助けたかったんだよ犯人を」  全身がガクガクと震えだす。 「ところで、凶器が見つかってないって言ったよね」 「」  椿はそこで初めて振り返り私の顔を見た。その表情は無表情で。私にむかって何かを投げてきた。私はそれを受け取る。  それは椿が唯に上げたプレゼント。唯がとても喜んでいた  だった。  椿にもらって唯が喜んでいたもの。私は椿から何かをもらったことなんてないのに。どうしても許せなかったもの。 「どうして……」 「どうして、君が犯人だって分かったのかって疑問かな? それともどうしてこれを持っているのかってことかな?」  表情一つ変えず椿は淡々と言ってくる。 「あの日、僕もみんなと別れた後に唯の家に行ったんだよ。話したいことがあるって呼び出されてたんだ」  一呼吸。椿が言う。 「唯の遺体の第一発見者は誰だと思う?」  空気が凍るような尖って冷たい声だった。 「もう一度聞こうか。?」  
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