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――今年は、ホワイトクリスマスを迎えることになった。
東京では珍しく気温が氷点下まで一気に下がり、今季一番の寒気に見舞われた。
大きな都市がみるみるうちに白く染まっていき、ビルや建物の縁には小さな棘状の氷塊が びっしりとくっ付いている。
雪に慣れていないのか、周りの通行人はあちらこちらで転んでいて、車やタクシーは凍結した地面にタイヤが取られ立ち往生をしている。
「私の知ってる“東京”じゃないみたい」
彼女は視線を色んな方向に向けながら呟いた。
確かに、彼女の言う通りだった。
僕は目の前に広がるこの光景を見て、異世界にでも来てしまったような錯覚に陥る。
目まぐるしく変わり続けている世界が、途端にスローモーションへ変異する。
この退廃的且つ異質で、アンニュイな雰囲気に少しだけ酔いしれてしまう自分が居た。
「ほら見て、真っ赤っか」
彼女は街の辺りを指さす。
バックランプに照らされた雪は、一度赤く染まり、車がその場を去ると何事もなかったかのように無垢な白へと戻っていく。
それはパレットのように、いとも簡単に他の色へと変色し、彩られていく。
「雪も強くなってきたし、私たちも早く帰ろっか」
彼女の温かい手は、僕の冷えた手を捉えた。
手のひらからやんわり伝わる熱は、外気の寒さを忘れるくらい心地良い。
しんしんと降る雪の勢いは衰えることを知らず、むしろ次第に強まっていく。
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