特別な一日

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「安心したように眠ってたね」 「そうだな」 「おば様、どんなに嫌がらせされても逃げなかったよ。ずっとあの家で大地の帰りを待ち続けてた」 「そうか……」 「本当に強い人だった……」  母さんに会いに行ったあの日――施設の部屋でテーブルを囲みながら三人で夕食を食べた。  何年ぶりかの食事は、とても穏やかで温かく、母さんはずっと笑顔だった。  あの地獄の日々には見ることの出来なかった母さんの優しい笑顔を最後に見れたこと、小さいけれど温かい手で最後まで俺の手を握りしめてくれたこと、全てが特別だった。  まるで俺の帰りを迎えるために待っていてくれていたかのように、それからすぐ母さんは静かに息を引き取った。  本当に、安心したような安らかな顔をして――……。 「ずっと着いててくれたんだな」 「約束したからね」 「それ、口癖なのか……?」 「さあ……」  一気に寒くなった冬の帰り道、隣に感じる人の温もり――俺にはこの温もりを抱きしめる術がない。  そんな俺の気持ちをきっと悟も感じ取っているだろう。  そう、俺は犯罪者――それは決して消すことの出来ない事実であり、一生続いていく。 「今までありがとう」 「ううん。約束だから……」 「もう、全てのことから解放してやる」 「なら、これからは一生俺が大地の側にいる。どんなことがあっても、この手を離さない」  そう言って、悟の元から去ろうとしている俺の手を両手で包み込まれた。  こいつは、何を言っているんだ――?  俺なんかと一緒にいて、幸せになれるはずないのに――。 「俺の幸せは俺が決める」 「俺は、お前から大切な物を奪ったんだぞ?」 「だから、隣にいて一生償ってくれればいい。それが俺の特別な一日になるんだから……」  目尻を下げて微笑んだ悟に、俺はただ静かに頷いた。  お前と過ごす未来が特別な一日となるように、二人で生きて行きたいと思った。
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