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 運命という言葉がある。  自分の意思とは関係なしにもたらされる幸福や不幸。  この世界は自分の力ではどうにもならないことで溢れかえっている。 「はっ……は、ぁ」  手入れの行き届いていない駅の裏。駐輪場のフェンスにしがみつく右手がずるりと離れ、彼はついに地面へ突っ伏した。  身体の奥が灼けるように熱くて立ってられない。それでもなんとかこの場から逃げようと地を掴んだ手は、無慈悲にも宙に吊り上げられた。 「ぁ……」 「大人しくしてろよ。オメガの餓鬼が」 「っ、はなして」 「お前のせいだ」  お前のせい。自分が一体何をしたというのだろうか。  でも仕方ない。これも運命だ。  自分がオメガという性をもって生まれたことも、今ここで偶然通りがかったアルファの男に襲われていることも。全部が運命なのだ。  この世界は、自分の力ではどうにもならないことで溢れかえっている。 「やっと大人しくなったか」  項垂れた頭を片手で鷲掴みにして引き上げられる。  抗えない。雄の、アルファの匂いに。  いくら心が拒絶しても、本能的にアルファの身体を求めてしまう。それがオメガという性だ。  身に纏う中学校の制服はとうに乱され、シャツは一部が破れてしまっている。最悪だ。  だからといって、身を委ねる以外にどうしようもない。  諦めてしまおう。でも、せめて頸だけは噛まれないようにしないと。  彼は目を閉じて両手で頸を抑えた。  諦めた。  ……諦め、ようと、した。
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