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幼少の頃より、経営者たるものいついかなる時も冷静でいなければならない。でなければ足を掬われかねない。
これまでそう刷り込まれ肝に銘じてきた。
こんな風に感情を強く揺さぶられるようなことなど一度もなかったというのに……。
正直驚きでしかなかった。
奏が自身の言動に少なからず衝撃を受けていた間に、ナンパ男は血相を変えて逃げ出していたようだったが、そんなことに構うまでもなく、離れた場所で控えていた柳本が事態の収拾を図ってくれていたようだ。
「奏さま、いつもの部屋でよろしいですか?」
「あっ、ああ、頼む」
なんとしても彼女と話す機会をと思ってはいたが、まさかこうもあっさりと実現するとは誰が想像できただろうか。
まさに拍子抜けだった。
彼女を自分以外の男に触れさせるのが嫌で、「わたくしが」そう申し出た柳本に、「否、構わない」と制して、奏自ら彼女を姫抱きにしてホテルまで運ぶ奏の姿を目の当たりにした柳本に至っては、終始感極まったように目尻に涙まで滲ませていたくらいだ。
それにはさすがにドン引きしたが、こんなことは初めてで奏自身驚きを隠せないでいたのだから無理もない。
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