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「未樹、そろそろ夕飯にしようか」
「もうこんな時間。ごめんなさい、気が付かなくて」
既に外は暗く、時計を見ると午後8時になっていた。私は引越しの荷物を解く作業をやめ、慌ててエプロンを外す。
私と飯島佳史は、クリスマスのプロポーズから3か月後の春、入籍した。
そして、結婚式を来週に控えた今日、4月5日に、新居となるアパートへと引越したのだ。佳史が住んでいた社員寮からほど近い場所にある。
「近くに美味い定食屋があるんだ。今ならピークを過ぎた頃だから、ちょうどいい」
佳史のさり気ない優しさにジンとなる。
ああ、本当に私は幸せだ。世界一の幸せ者だと実感した。
「どうしかした? どこか苦しい?」
感涙する私を、佳史は心配そうに覗き込む。何と思いやりに満ちた、素敵な夫なのだろう。
彼の傍にいると、冷静なはずの自分が、感情豊かな……と言えば聞こえはいいが、どうしようもない甘ったれになってしまう。
この変りように、引越しを手伝ってくれた部下達も、目を丸くしていた。
『主任って、旦那さんの前では無邪気なんですねー』
『オフィスでもそうだと、リラックスムードになるんですがねー』
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