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オレもどうしたらいいのか分からず、そのまま突っ立っている。
確かに昨日思い出したよ。
どうしてるかな?とも思ったさ。
だけどまさかこんなところで会うなんて、思いもしないじゃないか。
どきどきと心臓がありえないくらいに脈打って、変な汗が出てくる。
卒業以来会っていなかったそいつは、相変わらずかっこいい。
女子に人気だったけど、今でも女にモテそうだ。
彼女いるのかな?ここに住んでるのだから、結婚はしていないだろうけど・・・。
盗み見た左手には指輪ははまっていない。
クリスマスの夜に家にいるなんて、もしかしたら恋人はいないのかもしれない。
胸のどきどきが止まらない。
それどころが顔も熱いし、息も苦しい。
ずっと忘れられなかった。
誰と付き合っても、何度身体を重ねても、オレの心に住みついていたそいつを前に、未だにオレはそいつが好きなことを思い知らされる。
決して叶わない思いだと分かっているのに・・・。
「あ・・・隣に越してきたんだ。久しぶりだな。元気だったか?」
沈黙が堪えられなくて、オレはそう話しかけた。顔なんて見られない。あいつの目なんて見たら、きっとオレの思いは噴き出してしまう。
なのにそんなオレに、そいつは別のことを訊いてきた。
「いま・・・誰かと付き合ってる?」
視線をずらして必死に平静を装い、久しぶりの友人として声をかけたのに、そいつはオレの肩をがしっと掴んで視線を合わせる。
合わせたくなかった目を合わされ、びくつくオレよりももっと揺れる目で、そいつがオレを見てくる。
その必死の形相に、オレは一瞬目を奪われる。
「付き合ってる人、いるの?」
そんなオレに、そいつがもう一度訊いてくる。
「いや・・・いない」
昨日別れた・・・て、なんでそんなこと訊いてくるんだ?しかも、なんか切羽詰まってて怖い。
「だったら・・・」
掴まれた両肩を押され、オレはドアに押し付けられる。
「僕と付き合って。男だけど・・・男だけど絶対に嫌な思いはさせない。幸せにする。だから・・・だから・・・っ」
そう言いながら近づいてくる顔を、オレは避けずに見つめている。
何を言われてるんだ?
あまりのことに頭がついていかない。
引越しして、隣に挨拶に来たらあいつが出てきて、それでなんだって?
夢を見てる?
実はまだ寝ているのだろうか?
そう思っている間に唇が触れ、一気に舌が押し入ってくる。
食べられてしまうのではないかと言うくらい激しいキスに、動かない頭が朦朧としてくる。
ずっと好きだった初恋の相手にキスされているというその出来事に、心が必死に抗おうとする。
嘘だ。
こんなことありえない。
きっと夢を見てるんだ。
そう思いながらも、涙が目から溢れてくる。
「泣いても、もう逃がさないから」
流れる涙を口で吸い、そいつはオレを苦しいくらい強く抱きしめる。
「僕のことを拒否しても、僕は絶対離さない。僕だけが好きでいい。もう絶対見失わないから」
ぎゅっとオレを抱きしめる腕にさらに力がこもる。
「好きだよ。愛してる」
そう言って再び唇を合わせるそいつを、オレはわけも分からず迎え入れる。
夢でもいい。
ずっと忘れられなかったそいつに抱きしめられ、キスされている。
しかも、そいつはオレが好きだと言ってくれる。
オレは夢中でそのキスに溺れる。
舌が痺れるくらい絡ませ合って離れた唇。それが寂しくて、今度はオレから唇を合わせた。そんなオレに、そいつの身体がびくっと跳ねる。けれど直ぐにオレのキスに応えてくる。そのキスに再び朦朧としてくる頭の中で、誰かが笑っている。
『メリークリスマス』
にこにこ笑ったその人は、そう言って消えた。
昨日のサンタ?
そう思って気がついた。
このキスは、いちごの味がする。
あのあめ・・・。
『願い事をしながら舐めてごらん』
サンタにもらったあめ。
あのあめを舐めながら、オレはこいつのことを思い出していた。そして無意識に願った。
この思いが叶えばいいのに、と・・・。
まさか、あのあめが?
そう思ったところで、オレは唇を合わせたまま押し倒される。
どうでもいい。
夢だろうが、サンタからのプレゼントだろうが、そんなことよりも・・・。
「オレも好き・・・」
その言葉に、オレに覆いかぶさったそいつは本当に嬉しそうに笑った。
了
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