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第一章 通学路
十二月ともなると、街のそこかしこにクリスマスの飾り付けをしたお店が軒を連ねるようになる。
桜花学園三年、浜辺莉子(リコ)は商店街の飾り付けを横目で見ながら、朝の通学路を走っていた。
小顔に艶やかなロングの髪が靡いている。
目尻のホクロが悲しそうで儚げな印象を与えていた。
あーあ、今年もクリスマスが来ちゃた。
蒼井宇宙(ソラ)と友達になって三度目のクリスマス。
ソラと友達以上の関係にならない事に悩んでいた。
高校一年の夏に転校してきたソラと、同じクラスで隣同士の席になった。
一目惚れと言うと軽く思われてしまいそうだが、リコの想いはそういう簡単なものでは無かった。
リコは恥ずかしさと戦いながら、何度も何度もソラに話しかけた。
放課後に勉強を教えたり、人付き合いがあまり得意でないソラのフォローをしたりとするうちに、ソラは心を開き、唯一の友達になったのだ。
しかしそこから関係が進む事なく三年が過ぎ、恋人としてソラとクリスマスを過ごす事なく過ぎて行った。
リコが朝から走っているのは、ソラとの待ち合わせの為である。
いつものように交差点のガードレールに座ってリコを待っているソラの姿が見えた。
こちらを向いてガードレールに寄りかかっている。
長い足を組んで、ビルの壁面に貼ってある映画の看板を見上げていた。
リコは立ち止まり、振り返り看板を見た。
何の映画だろうか。
「クリスマスのヒロイン」と題名が書かれていた。
横向きに二人の男女が見つめ合っている。
恋愛映画なのだろう。
見た事のない俳優、女優であった。
看板の下の方に書いてある名前を見る。
イシイソウタ、ヤマダサキ、コトリユウ‥みんな知らないな。
でも、綺麗な女優さん。
まあ、結局、ヒロインは綺麗な子がなるんだよね。。。
ソラはスマホの時刻を指差し、リコに向かって叫んだ。
「毎日遅い!
五分前行動が出来ないのか?
今日も遅刻だぞ!」
喉まで出かけた「ごめん」と言う言葉を押し殺し、ムッとして言う。
「髪のセットに時間がかかるの。
女優さんだってメイクに時間かけるでしょ?」
「リコが女優?」
ソラはリコを指さし、不思議そうに言った。
「例え話よ。
もう、上げ足取らないで!」
ソラはおかしそうに笑っている。
何も笑わなくてもいいじゃない。
素直に謝るつもりだったのに。
「まだ間に合う!
行くぞ!」
ソラはリコの手を取ると、学校に向かって走り出した。
リコは小声で「ごめん」と言いながら、ソラに引かれるまま、走り出す。
ちょっとした映画みたい。
ドキドキして赤くなった顔を誰にも見られないように、片手で顔を隠しながら。
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