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「姉御が神坂に謝らないと前に進めないなら、話せる範囲で説明して謝ればいいと思いますよ」
後からグループ通話を始めた千冬がそう言ってくれたので、私はホッとしながら「ありがとう」とスマホを耳に押し当てたまま頭を下げた。
「問題は宴親子のことをどこまで話すかだな。神坂は宴はレイプに加わってないと信じてる風なんだろ?」
修司の口振りだと、修司自身は宴も加害者だと確信しているということだろう。それは私も同じだ。
別荘を勝手に使われていたなんて真っ赤な嘘だと思うし、場所を提供しただけだというのも不自然だ。
私が別荘から盗んできたSDカードの動画に映っていなかっただけで、宴もレイプ犯の1人で被害者女性たちから奪った記念品をどこかに隠しているのも宴だと思っている。
「とりあえず私が初の姉として生きてきたことや、彼女の死の真相を調べたくて雪奈としてグリフォンに潜入していたことは話すつもり。真人は初がレイプの被害者だということをまだ知らないから、私の話を聞いたら凄くショックを受けると思うけど」
「『あの日別荘に忍び込んでいたのは自分だ』と神坂に告げるんですか?」
「うん。キナに似ていたと言ってたから、正直に話すよ。宴のことは……まだ疑ってるって言ってもいいかな?」
「いいんじゃないか? 別荘で犯行が行われていたんだから、疑って当然だろ。案外、神坂が何か知っていて教えてくれるかもしれないぞ」
「真人は何も知らないよ!」
「いや、神坂が犯人の一味だっていうんじゃなくてさ。あいつも別荘によく行ってたんだから、そういえばあのときの宴の様子が変だったとか、何か思い出すかもしれないだろ?」
なるほど、そうかも。
今は宴は白だという警察の判断を信じている真人だけど、私が疑っていると知ったら別荘での出来事や宴の言動に疑いの目を向けてくれるかもしれない。
人は信じたいものを信じる。そこにほんの少しでも疑いを持ったら、今まで見ていたものが別の意味を持ってくることもある。
「あたしたちが今、誠一郎の過去を洗い直していることは言わない方がいいんじゃないですか? 誠一郎のお抱え運転手みたいなことをしているのに、神坂が疑惑の目を向けるようになったら誠一郎にバレちゃいそうですよね?」
「確かに。真人はポーカーフェイスじゃないからね。そこは黙ってることにする」
「神坂を俺たちの仲間に引き入れようとか考えるなよ?」
「わかってる」
この時の私は、真人を巻き込むつもりなんてさらさらなかった。
ましてやノエルちゃんまで危険な目に遭わせてしまうことになるなんて、夢にも思わなかったんだ。
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