10.あなたといる、幸せ

17/17
3629人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
 愛おしい背中を見ていたら、不思議と涙が溢れた。  と、閉じかけたドアが大きく開いた。 「鍵! 忘れ――」  輝が、私の顔を見て目を見開く。 「――どうした!? 具合悪いとか!?」  輝の手の平が私の頬に触れる。 「違うの」 「何が?」 「幸せだなって、思って」 「え?」  手の甲で涙を拭い、笑ってみせた。 「輝と幸大と一緒にいられて、幸せだなって思ったの」  輝は疑いの視線を向けているけれど、嘘は言っていない。 「私、幸せだわ」 「姉ちゃん……」  余程驚いたのだろう。  久しぶりに『姉ちゃん』と呼ばれた。  なんだか、くすぐったい。  顔を覗き込む輝に、今度は私から唇を寄せた。 「毎日あなたがいてくれて、幸せよ」  輝まで泣きそうな表情になるから、今度は私が慌ててしまう。 「幸大が待ってるね。車の鍵なら――」 「――俺も、幸せだよ。朱里と幸大がいてくれて。それに……、朱里が幸せならもっと」  勢いよく後頭部を掴まれ、抱き寄せられた。 「愛してる」 「うん。私も」  耳にかかる息の熱さに、のぼせそうだ。 「愛してる……」  何気ない、日常に感じる幸せを大切にしようと思う。  毎朝の挨拶、一緒に食べる朝食、行ってらっしゃいのキス。  夜にはその日の出来事を話し、一緒に眠る。  小学生になった幸大の運動会にも一緒に行きたい。  そんな、普通の毎日。  それこそが、幸せのカタチなのだと思う。  あなたがいる幸せを、これからも大切に――。 ----- END -----
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!