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部屋に緊張が流れる。
シャクシャクと彩花がレタスを咀嚼する音が聞こえる。
ベッドで二人の男女がキスをしながら抱き合っている。
つむっている深雪の目を柚葉は見ていた。深雪の体はどこか硬直しているようだった。
「待って」と目を開けた。
視界の片隅で彩花がピザに手を伸ばすのを確認しながら柚葉は二人を見ていた。
「待って」ともう一度深雪は言った。
ぼそっと、何かを言った。
何て言ったのかわからないけれど、ケンジはくっつけていた体を離した。
それから、ベッドで仰向けになっていた深雪の体を起こし、ぎゅっと抱きしめてから頭を撫でた。
二人が離れる。
深雪はベッドから降りて立ち上がった。
彩花を見てから、柚葉を見た。
目があった瞬間、深雪はちょっとだけ微笑んだ。
きゅんとなった。
なぜ柚葉の胸がきゅんとなったのかわからない。
でもその微笑みは不思議な力を持っているようだった。
微笑みは一瞬で、すぐに深雪は下を向いた。
何が起こったのだろうと思って彩花を見ると、彩花はピザを食べながら視線を深雪に向けていた。
視線の方向を見ると、深雪はひとりバスルームへと向かっていた。
ああ、シャワーを浴びるのかと柚葉は納得した。
ラブホテルに、脱衣場はない。
服を脱いでいるあいだ、深雪を見ないことにした。
柚葉もピザに手を伸ばした。
ドアの閉まる音がした。
確認してから、視線を戻す。
「大丈夫っすかね」とケンジが頭を掻いていた。
「わりと優しいんだな」彩花がコーラを飲みながらつぶやく。
柚葉は黙って見ていた。
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