修学旅行in京都

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ぎゅっ、と俺の手を繋いだタッキーが無言で人の間を通って行く。その片手には少し溶けてしまった抹茶アイス。 「……ん、どーぞ」 人の波から少し外れた日陰に着いて、タッキーが俺にアイスを差し出す。俺は、少し目を瞬いてそれを受け取った。お、おおう、なんかカレカノみたいだなこれ。 って、ん? 「タッキーのは?」 あれ、と首を傾げると、タッキーはふ、と笑って 「俺はいらない。一個丸々とか多いし、カッキーからちょっと貰えばいいし」 と答えた。何それお前、イケメンかよ。 「じゃあお前、俺だけのためにこれ並んで買ってきたのかよ…いくら?」 「払わなくていい」 「は?何言ってんだよ、俺そこまでクズじゃないよ?」 「いーの、俺はカッキーが喜ぶのを見るのが好きだから。幸せの代金」 なんて、肘を突きながら小っ恥ずかしいセリフを言うタッキーは嬉しそうで、俺は思わず照れてしまった。息を吐くようにイケメン台詞言うのはやめて頂きたい。いまだに心臓がドキンコしてるんだが?? 「…アリガト」 カタコトでお礼を言ってそのまま照れを誤魔化そうと、アイスをスプーンで掬って口に運ぶ。瞬間、口の中に冷たさと程よい苦味、そして甘さが広がった。 「んまっ、すげぇめっちゃ抹茶だ!!」 「それは良かった、しかし語彙が無い」 「俺に食レポ期待すんなよ、うまいもの食ってる時語彙力皆無だから」 軽口の応酬が続く。日陰には少しぬるい風が吹き抜けていて、笑う俺たちの頬を優しく撫でた。 「カッキー、ほら、俺には?」 小さな沈黙の後、タッキーが悪戯っぽく俺に尋ねた。あーん、ないの?と自らの口を指差す。 それを見て学習能力の高い俺は、あ、絶対こいつ俺を揶揄う気だな、とすぐに察した。タッキーのこういう顔は旅行中何回も見た。 ふっ、お前の思い通りにさせるか! 「ほらよっ」 アイスを掬って、すぐにタッキーの口の中に突っ込む。タッキーはまさか俺が平然と口に突っ込んでくるとは思わなかったみたいで、少し意外そうな顔をしながらアイスを飲み込んだ。その顔に俺はドヤる。俺はな、予測した事態には強いんだよ!!!……不意打ちとかは弱いけど。 「残念、照れながらやってくれるの期待してたのに」 「流石に俺にも学習能力というものがあるからな」 ベー、と舌を出してアイスを頬張る。この季節に食べるアイスって美味しい。 「可愛い」 「ングっ!?」 不意打ちでタッキーが、とろり、と砂糖吐きそうなくらい甘い声で言うので俺は即座にアイスを気管に詰まらせた。恨みがましい目を向ける。 「おいっ、もう……そういうこと言うのやめろって」 「ん?俺何に可愛いって言ったかは言ってないけど?」 「……………ばか、あほ、おたんこなす」 「んははっ、小学生ですか要君は……まぁ、俺が可愛いって思うのはカッキーだけだけど」 「バーカバーカ!!!」 もうほんとやだ。タラシってやだ。こいつ絶対将来女の子に背中刺されるよね??いや待て、普通に男にも刺されそうだわ。俺という証人がいる。 「…そういえば、さっきの人って知り合い?」 唐突に声を低くして聞いてくるタッキー。急な情緒の変化に俺はもうついていけないよパトラッシュ。 「さっきの人って彗先輩?いや、今日が初対面だけど」 彗先輩、と言ったあたりで顔を顰めるタッキーだが、俺はあえてスルー。もう突っ込まないよ俺は。 「初対面であれって……いつも思うけど、カッキーのコミュ力は化け物級だよな」 「ん??貶してんの???褒めてんの??」 「褒めてるに決まってんじゃん」 その割には棒読みですがタッキーさん?? 「あー……なんか怒ってる?」 色素の薄い瞳が苛立ちを含んでいるのが見えて、恐る恐る顔色を窺うと、タッキーはにっこりと爽やかな笑顔で頷いた。 「うん、めちゃくちゃ腹立ってる」 「おおう……」 な、なんで?という顔をすると、心を読まれたのか額にデコピンされる。いてっ。 「カッキーってほんとに、余計なことしかしないからすぐ別の男引っ掛けてくるし、言うこと聞かないし、ちょろいし」 「うっ」 ぐさっと刺さった。うう、なんたる暴言……でも否定できない俺がいる。男引っ掛ける云々のところは否定しかないがな!!! 「いっそのこと喋らない方がいいんじゃね」 「そんなに!?」 清らかな笑顔でとんでもないこと言いやがるぞこいつ。喋れなくなったら俺多分自動的に破滅エンドになる気がするからそれだけは嫌なのだが?? 「冗談だよ」 嘘なのかほんとなのかよく分からない軽薄なノリでそう一言言う。そしてそのまま流れるように俺の顔に手を伸ばして指で口元を拭い、指をぺろりと舐めた。 「ファっ!?」 真正面からその色気を食らって、俺が変な声を出すとタッキーは艶やかな顔でふ、と笑んだ。 「ついてた」 「………ゆ、有罪っ!!有罪だ馬鹿!!!」 「ひっでぇ」 顔を真っ赤にして叫ぶ俺にタッキーは機嫌が良さそうに笑った。 マジで恥ずい。ほんと無理。マジ無理……くっそ、顔が良いなちくしょうっ!! どこぞのチャラ男並に慣れてやがる…!!俺の純情を弄びやがって!どうせ俺は今世でも余裕あるかっこいい男になんてなれねーんだ!! やけくそになってアイスを完食すると、修学旅行の写真を撮ってるカメラマンさんに声を掛けられた。 「お、二人とも発見。休憩中?撮ってもいいかな?」 「えっ」 「お願いします!」 手にアイスのゴミ持ってんだけど今、と困惑している俺を余所にタッキーはにこやかにカメラマンのお兄さんに答えた。乗り気なの?珍し。 アイスのゴミをくしゃっと丸めてポケットに突っ込み、お兄さんの指示で座ったまま距離を縮める。ほぼ真隣に座ると、にっこり笑ったお兄さんが片手を軽く上げる。 「お、いいねぇ。じゃあ自然な感じで撮りたいから、二人とも好きにおしゃべりしてて」 自然な感じ……この距離で??? 微妙な顔をする俺に、タッキーが吹き出す。 「ぶふっ、その顔で写真撮られるぞ」 「いやだって、近すぎね?こんなピッタリくっついて会話とかどんな状況だよ」 「細かいことは気にすんなよー、ほら、笑顔笑顔」 「むぐっ」 完璧な笑みを見せながら、俺の頬を掴んで持ち上げる。おい、これさっき彗先輩にも似たようなことされたぞ。 「なんかゆるキャラみたいだな」 おかしそうにタッキーが笑うので文句を言おうとしたら、カシャっと音がして写真を撮られた。 えっ、ちょっ!? タッキーの手を引き剥がしてカメラの方を見ると、お兄さんは画面を覗き込んで満足そうに微笑んでいた。 お兄さんんんん???? 「うん、よく撮れた。二人のイチャイチャ…じゃないや、仲良しな姿が撮れたよ、ありがとう」 「け、消してくださいマジで!!」 お兄さん途中本音隠せてないからね?? 内心カメラマンさんにツッコミしながら俺は流石にこれはやばいとめちゃくちゃ必死で抗議する。あんなものが世に出たら……う、うわー!!! 絶対俺変な顔してるマジで消して欲しい無理!!!棗とか父さんとか母さんとかクラスの奴らに見られたら俺まじで羞恥心で死んじゃう!! 「写真販売、楽しみにしててね」 しかし、お兄さんはスルースキルのレベルカンスト保持者だったのでにっこりされてそのまま去っていってしまった。いやめっちゃ不吉な言葉残すじゃんあの人!!!! ────────── カメラマンのお兄さんの心情 (うわ何あの中2カプ、尊いがすぎる!!金閣寺たまたま行って見つけた時から気になって遠くから自然な写真撮ったりしてたけどもっと近くで色々してるところ撮りたくてついに話しちまった…だが後悔はしていない、うわー、まじ尊、てぇてぇがすぎる…写真に応じて尚且つサービスしてくれる黒髪くん察し良すぎる、ありがとう。供給をどうもありがとうご馳走様です。というか、直前のアイス食べるとことかマジで鼻血出るかと思った、今日ほどこの仕事をしてて良かったと思うことはない!!グイグイ行く黒髪君と鈍感な茶髪君の素直な反応がマジでっ…もう、クるものがあるわ。茶髪君言い回しいちいち可愛いし、それにグッときてる黒髪君はまじで男の中の男って感じで美味い…一見飄々としてるけど実はめちゃくちゃヤンデレ予備軍なタイプ、絶対あれは執着型ヤンデレだ、あ、依存も良いなぁ、誰かのものになるくらいなら俺が殺して…ってなって全く同じ死に方で後を追うやつだな。夜は絶対にドS、言葉責めも多そうだ。んで、めちゃくちゃえぐい攻め方するけど、余裕そうに見えて本当は自分が愛されてるかがいつも不安で、際中は相手に好きと愛してるを何回も言わせるんですね分かりますっ!) 「あれカメラマンさんじゃね…?写真撮ってくださーい!!」 「(おっと呼ばれちゃった、はぁああああ、ほんと尊かったなあの二人…)はーい、今行きまーす!!」 (またあのカプに会えるの楽しみにして仕事頑張ろ) ▶︎カメラマンは腐っていた!
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