感情、知性の複合体

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案内されたのは個室で悠仁が引いてくれた椅子にそっと座る。靴擦れが出来るようなものではないけれど、歩くと真新しいパンプスにきゅっと圧迫されるような感触があったので体重がかからなくなった足を一度パンプスから解放してから、また足を入れた。 「玖未、食べたいものは?あれば希望のものを出してくれる」 「全然わからないから…悠仁に任せていい?飲み物も…」 メニューを受け取った悠仁がそれを開く前に私に聞いたので、任せると伝えると今度は舞花が向かいから私に聞いた。 「玖未はあんまりレストランへは来ない?」 「うん」 「そっか。調理師なんだから食べたいもの、言えばいいのに」 「そうだね。でも思いつかないからいいや…調理師って言ってもこういうレストランとは全然違うもの」 「ああ、そっか、そっか。庶民居酒屋や大衆食堂では全然違うか」 「うん、別物だね。すごく楽しみ」 私がそう言うと悠仁が私の頬を人差し指の背で撫でてからコース料理と飲み物を、途中で右京と二言ほど交わしながら注文してくれた。 「玖未ちゃんはレストランへはあまり来なくても、バーとかで飲み慣れてるよね。この前会ったバーのマスターが‘とても美しい飲み方をされる’って玖未ちゃんのことを言ってた」 結果的にだが、私が1年ほど深夜に通っていたのが須藤の繁華街だったのだから噂のひとつやふたつは仕方ない。右京に小さく頷きながら 「…シャンパンも好き」 乾杯直後で手にあったグラスを見た。シャンパンは一人では飲まないけれど、繁華街でご馳走してもらうことが何度かあったから。 「分かる、分かる。このシュワシュワが美味しいよね?」 「中山さんのシュワシュワの言い方はビールにも聞こえますね。ビールお好きですか?」 右京が舞花を見ないでシャンパンボトルに手を伸ばしながら聞いた。
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