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「いやぁ、懐かしいな。授業参観で言ったお前の夢、本当に叶えちまうなんてな」
僕の目の前に座るその男は、どこか朧げな目をしてそう言った。
山内康平。オスのエキゾチックショートヘアー。人間から『ブサカワ』と言われてる、褒められてるのか褒められてないのかわからないあの種類だ。
康平は、僕にシャケの缶詰を渡してきた。『今日は俺が奢る』と言われているので、遠慮なく頂いた。
「今じゃお前も、人間と肩を並べて活躍する画家になって。俺は誇りに思うぞ」
「ありがとうな」
正直言って、猫が人間と同じような画家になることは不可能だと思っていた。周りの猫からもそう言われていた。
『猫が画家になんかなれるもんか』と。
「しかしどうだ。それが今じゃ誰もが知る超有名画家ときた」
康平は、僕の肩を叩いてそう言った。肉球のお陰で、叩かれてもさほど痛くはない。
「康平、聞いてくれ。この前のオークションで……」
「知ってるぞ。落札価格が十億を超えたんだってな。おれは数字が二桁までしか分かんねーから実感湧かねえな」
「人間が一生働かずに暮らせるくらい、かな」
僕がそういうと、康平は小首を傾げた。
エキゾチックショートヘアーは首が短いので、首を傾げた康平はなんだか面白かった。
「猫は生きてくのに金なんて使わないだろ。爪と肉球さえ有ればなんとかなる。だから、金とかよく分かんねー」
確かに。猫がコンビニに行ってお金を出したところで、何か品物が買えるというわけじゃない。
そもそも、猫がお店に入れるのかという点でさえ不明瞭である。
お金には意外と、人間が執着するほどの価値はないのかもしれないと思った。
「それはそうと、俺ド忘れしちまったんだよ」
「……?何をだい?」
「お前の、画家としての名前だよ。ぺんねえむ、ってやつだ。ハン……シーみたいな」
康平が一生懸命に考えているのが面白かったので、僕は答えを言わずに見ていることにした。
康平は、眉を顰めて必死に思い出そうとしている。
「バン……」
「そうそれだ!」
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