パンチング!!

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「掛井編集長!復帰おめでとうございます!」 誰も居ない出版社に朝早く出勤した掛井はいきなり目の前に現れた後輩の工藤美月に驚いた。 「わっ!ビックリした!工藤さん、早いのね?」 工藤は茶色の長い髪の毛先をクルンとカールさせていて、片方の耳に垂れたスワロフスキーのピアスがよく似合っていた。 ミニのタイトスカートから惜しげもなく出した白い脚は、さぞかし編集部の男たちを虜にしている事だろう。 「抹茶ラテ。お好きですよね?」 屈託のない可愛らしい彼女の微笑みに見とれながら、抹茶ラテを手渡され 「あ、うん。どうもありがとう」 と、掛井は少し気後れしていた。 何も後ろめたさを感じる必要なんてない。 ただ、普段の日常が戻って来ただけの事だ。 掛井は見慣れていたはずの、ビルの上から見下ろす景色に動揺しながら抹茶ラテを飲む。 掛井は見事不戦勝になった。 あの女同士の醜い戦いに勝ったのだ。 世間を賑わせたインフルエンサーの須野ひなこ、望月あやのの存在は、この世から削除されていた。 掛井が、ネットの何処を検索してみても、彼女たちの名前はヒットしなかったのである。 「あ、そう言えば」 と、工藤が振り向いて言った。 「掛井さん、聞きました?龍生さん飛ばされたらしいですよ?どこだったけな・・・海外の紛争地域。現地カメラマンの助手ですって」 「え・・・・・」 抹茶ラテを持つ掛井の手が震えた。 龍生は海外になんて行ってない。 龍生が行った先は、きっと・・・・。 掛井の頭の中であのファンファーレが鳴り響いた。 さぁ!皆さん! お待たせ致しました! 第3試合の始まりです!!! 了
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