プロローグ

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プロローグ

「おっせぇよ馬鹿。今どこにいんだよ? あ? だったら早くこいや。ダッシュなダッシュ」  たく、と愚痴り若い男がスマフォの通話を切った。チッと舌打ちする。 「本当トロくせぇ女だな」  周囲がチラリチラリと視線を向けてくると、あん? と威嚇するように睨みつけた。金髪で耳にピアス、格好も派手でいかにも昔ヤンチャしていてそのまま成長してきましたという雰囲気ただよう男だ。  ここは駅前で人通りもそれなりに多いが、その風貌のおかげか誰も男の近くに寄り付こうとしない。 「やってらんねぇな」  男は徐にポケットからタバコを取り出し口に咥えてライターで火をつけようとした。 「ここは、き、禁煙ですよ」  すると通りすがりの会社員風の男が注意する。ギロリと男が睨みつけた。 「何だおっさん。文句あるのか?」 「いや、だから、き、な、何でもないです」  結局そそくさと会社員風の男はその場を離れた。ケッ、と唇を曲げ、男は改めてタバコに火をつけようとする。 ――ガチャン、ガチャン、ガチャン。  異音が耳に届いた。何か固いものが擦り合わさったような擦過音。今度は一体何だ? と男が目を向けギョッと両目を見開いた。  鎧を着た男が近づいてきていた。まるで戦国時代からタイムスリップしてきた武士のような鎧姿だ。  兜もしっかり被っていて顔だけが顕になっている。  それは中年の男だった。眉を顰め不機嫌そうに近づいてきている。腰には刀が帯刀されていた。 「ははっ、何だおっさん。いい年こいてコスプレか? なかなか様になってんじゃん」  金髪の男が一笑する。周囲の人々も奇異な目を向けていた。今どきコスプレなど珍しくもないがそれでも武士を彷彿とさせる鎧姿は悪目立ちがすぎる。 「おい、なんとか言えよ」  武士然とした男は黙々と歩みを進め男の直ぐ側までやってきた。    何だこいつ? と男が目を眇める。 「何だよ。さてはお前も禁煙だ、とでも言うつもりか? そんな格好してれば俺がビビるとでも思ってるのかよ!」  男が激しく武者姿の男に言い放つ。恫喝するような態度だが、鎧武者は全く怯まず、それどころか腰の刀をスラリと抜いてしまった。 「はは、何だこいつ? そんな玩具の刀で俺がビビるとでも」 「キェデエェエエエエェエエエェエエエェエエエエェエエイ!」  奇声を上げ、武者が金髪の男を切った。頭がぱっくりと割れ、今まで金髪だった頭が朱色に染まった。 「へ? う、うそ、だ,ろ――」  血まみれになった男がその場に倒れた。鮮血が地面に染み渡り血溜まりが広がっていく。 「え? 何あれ?」 「鎧武者が人を、切った?」 「え、映画の撮影、とか?」  周囲は一瞬何が起きたのか理解できなかったようだ。ざわめきが起こるがどこか現実感がなさそうである。 「き、きゃぁああぁあああ!」  女の悲鳴が上がった。鎧の男が反応し悲鳴を上げた女に斬りかかる。女が倒れた。そして今度は近くにいた通行人に次々と斬りかかっていった。 「ヒッ、嘘だろ!」 「け、警察!」 「うわ、こっち来るな来るな~~~~!」 「変質者だ! 変質者が出たぞーー!」  一瞬にして駅前はパニックに陥った。鎧武者の凶行は続く。 「真ちゃん!」  最初に斬られた男に一人の女性が近づいていった。 「嘘、こんな、どうして!」  涙を流して倒れている男を見る。どうやら男が電話していた相手だったようだ。彼の彼女なのかもしれない。  悲しみに暮れる女だったが、倒れていた男の指がピクリと反応した。 「え? 真ちゃん無事なの!」  女の顔に希望が灯る。まだ息があるならすぐにでも病院に連れて行かないとと思ったのかもしれない。 「真、ちゃん?」  真と呼ばれた彼が立ち上がった。そして女が唖然とした顔を見せた。真はどういうわけか鎧姿に変貌していた。まるで自分を斬りつけた相手のような鎧姿だった。 「え? え? 真ちゃん。ど、どうしたのそ――」  その言葉が最後まで続くことはなかった。真の刀が彼女の喉を貫いたからだ。ゴボゴボと声なき声を上げ手足をばたつかせそして女は事切れた――
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