4 山狩り

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昨日、この民宿ふるさとのリビングで絹枝から聞いた話である。忘れようもない。 「確か、友達の『キクカちゃん』でしたか?」 「そう、防空壕に入れんかった娘やな。実はあの時の光景を見とったんだよ…… 仲根くんが。仲根くんは委員長でな、クラスのみんなから慕われていた…… その子らも、腕やら、足やら、目玉やら…… になってバラバラになりおった。そんな血溜まりの中でずっと泣いとったよ…… そして、戦後を迎えた後からだよ…… 積極的に人間剥製作りに手を出すようになったのは」 「え? 積極的にって?」 「仲根くんは人を剥製にする仕事だけは拒否しとったよ。鳥や虫や魚や獣を剥製にすることは出来ても、人は倫理的に無理じゃったのだろう。ところが、今話した同級生がバラバラになる様を見て、何かが『切れた』のだろう」 ぼくは芯弥が言っていたことを思い出した。 「父は…… 間違った形で『平和だった時の村』を作ることに尽力し始めたんです…… それが、あの地下坑道です」 芯次郎は目の前で平和を失ったからこそ、あの当時の平和を自分で作った人間剥製を地下壕に置くことで再現しようとしているのか…… 色々と話は繋がってきたが、全く以て理解出来ない。海外のシリアルキラーの発想と大差はない。ぼくは唾棄すべき話と一蹴してしまった。 絹枝は「ふぅ」と溜息を()いた。 「もう今は『平和』なんだよぉ? 仲根くんの夢はもう叶っておる。そこにはもう『誰』も入る余地はない。もう、あんたさんは関わってはならん」 頼まれても関わりたくねぇよ! 知らないうちに巻き込まれていたんだ! ぼくは激昂しそうになるも、その言葉を呑み込み、堪えた。 「さて、ここから出る方法を教えようかねぇ? 今のままじゃここに光は差し込まないし、あんたさんも袋の鼠だ。どうやら『ここ』は入口も塞がれてるみたいだからねぇ? 出口も塞がれてるってわけさねぇ」 「出ら…… れるんですか……?」 「そうだよぉ、出られるよぉ?」
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