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1 プロローグ ※妻目線
※次話以降、夫目線で話が進みます※
「私はお前を愛することはない。私に愛を期待しても無駄だ!」
ナイトドレスを着たわたくしを前に、そう宣言したのは、今日からわたくしの夫となったミッチー……もとい、マイケル=マクマホンです。
侯爵家の長男として育ったはずの彼は、分厚い眼鏡が位置をずらしてしまうくらい息を乱していました。
男性にしては長めの焦茶色の髪は、白いベッドに散らされています。
女性よりも白いその肌は、首から上が可哀想なくらい赤く染まっていて、眼鏡の奥で揺れるベリー色の瞳がなんともいえない色気を漂わせています。
そんな色気たっぷりのインドア感溢れる旦那様を見たわたくしは、その言葉を聞いた後、ふむ、と考え込みました。
ここはどう出るべきかしら。
「考え込む前に、私の上から退け!」
おや、と私は思考の海から戻ってきます。
そういえばわたくし、これから初夜だと思って旦那様をベッドに押し倒していましたわ。
「どかせばいいんじゃありませんこと? 男性である旦那様の方が力が強いのですから」
「そんな透け透けの格好の女性に触れるか!」
「妻なのに?」
「だ、だから私は、お前を愛することはないと……!」
初心な様子で、けれどもわたくしをはっきりと拒絶する旦那様の様子に、わたくしはハッと息を呑みます。
わたくし、事ここに至ってようやく、壮大な自分の勘違いに気がついてしまったのです。
わたくしは恥ずかしいやら罪悪感やらで、ついポロリと一筋の涙をこぼしてしまいます。
「ス、ステファニー?」
「……ごめんなさい。わたくし、色々と思い違いをしていたようです。旦那様の――マイケル卿のおっしゃること、承知いたしました」
「えっ?」
わたくしは素早く彼から離れると、ガウンを羽織ってベッドから離れました。
「今まで大変申し訳ございませんでした。離縁でも白い結婚でも愛人でも、全て受け入れます。今後はできうる限り、視界に入らないようにいたしますわ」
「な、え、あの、ステフ……」
「無理に愛称で呼ぶ必要はございません。わたくしは自室に下がります。これからのことは手紙で命じてください。それでは」
わたくしはカーテシーで一礼すると、それはもう目にも留まらぬ速さで内扉を通って自室に戻り、自室側から鍵をかけました。
わたくしったら、なんてことでしょう。
今までこんな恥ずかしい勘違いをしていたなんて、穴があったら入りたいくらいです。
(ミッチー……)
子供っぽいからその愛称はやめろと何度も言われて、二人きりの時だけ呼んでいたその愛称。
もう口にすることがないその呼び名に、わたくしはポロポロと涙を零します。
わたくしは、彼のことを一番理解しているつもりで、できていなかったのです。
これからわたくしは、彼への贖罪のため、頑張らなくては。
だけど今日だけは、わたくしは主役の花嫁です。少しくらいのワガママは許されるはず。
わたくしはそれを言い訳に、自分を甘やかして、明日の朝目が腫れてしまうであろうことも気にせず、わんわん夜通し泣き明かしたのでした。
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