ヒーローしかいない街

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 ヒーローになりたい。  その一心で俺は努力と研鑽を積み重ねてきたんだ。潰した血豆は両手じゃ数え切れないし、正義感も人並み以上にあったからね。  ヒーローライセンスを取らないと行けなくて、家族の反対を押し切って家を出ていったのが今でも懐かしいよ。バイトして、必死に働いたね。先輩に怒られても文句一つ言わずに、ヘコヘコしてさ。  その甲斐あって、ヒーローとして初めての任務を受けたんだ。高揚感より安堵の気持ちの方が強いね。か弱い市民を救って、笑顔を守りたかったんだ。最高の動機だろ?  でもな、現実ってのはいつも俺の後ろから殴りかかって来るんだ。馬鹿みたいだよな。 運が無かったとかそんなんじゃなくて、寧ろ浮気現場に意図せず入ったみたいな、しっとりとした絶望感を感じたんだ。  だって、この街の全ての人は既にヒーローライセンスを持っていて、誰かを守る必要なんか無かったんだ。俺がいなくても、とっくの昔から平和だったんだ、この街は。
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