猫になりたい

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 信一はゆっくり立ち上がると、きっぱりとした表情で店員に告げた。 「今日はこれで帰ることにします」 「えっ? あ……、はい。ご理解いただき、ありがとうございます」  あっさり引き下がる信一に一瞬面食らった様子だったが、店員は少しホッとしたように頭を下げた。だが、信一はこれで終わる男ではなかった。 「ちなみに、一番空いている曜日とかありますか?」 「えっ? 曜日……ですか?」 「ええ。一時間程度観察したくらいじゃ、まだ猫にはなれませんから。また取材させていただくことにします。次は、で」  他の人に引かれようと、不審者に間違われて警察を呼ばれようと、己の信念を曲げない。  童話作家「深見信一」とは、転んでもただでは起きない男であった。 ──────おしまい  
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